スポーツ系研究者がジャニーズWESTの曲に感銘を受けた話

この曲です。
その名も、"むちゃくちゃなフォーム"。


スポーツに関する研究のお仕事というものが実は色々とあって、とりわけ私は動作を解析して指導を行う、そういう解析の機会をいかにアスリートだけでなく一般の人にも広げるか、というお仕事をしている。

動作解析というだけあって、望ましいフォームについて毎日考えまくっている自負がある。だから"むちゃくちゃなフォーム"というタイトルに人一倍反応してしまった。




どんな歌なのだろう?





太っ腹にもYouTubeで1曲丸々視聴できて、MVの中の俳優の伊藤淳史さんと野球少年のやりとりも素敵だからぜひ聴いて/見ていただきたい。

サビの歌詞がこちら。

むちゃくちゃなフォームで生きていく
そんな背中悪くもないか
心臓だって ど真ん中を
一歩はみ出して止まらないんだ
ぐしゃぐしゃなフォームで笑ってる
夢はありますか?
あるよ あるよ 僕にもやれるんだ

上記サビのうち4段目までは、"むちゃくちゃなフォーム"というタイトルに沿った素敵な歌詞という印象。

しかし私がハッとしたのはその後のフレーズ。

夢はありますか?


抜き出すと一見J-Popの歌詞に頻出するくだりだが、この文脈ではあまりに唐突すぎやしまいか。しかし、この一節がなかったら、私はこの曲が言わんとすることを自分のものとして咀嚼できなかったかもしれない。


🏃‍♀️🏃‍♀️🏃‍♀️


我々スポーツ動作解析班の仕事は、機材やらセンサーやらで動きを数値化し、それに何かしらの"良い-悪い"の判断を科学的な見地から下すからこそ成り立つものである。
(ちなみに私は陸上競技やランニング専門としています)

とはいえ人間のことだから、科学の力をもってしても絶対的な正解なんてないのだ。だって私たちは均一なロボットじゃないから。"心臓だってど真ん中を一歩はみ出して止まらないんだ"ってそういうことでしょう?

いわゆる"むちゃくちゃな"、"ぐしゃぐしゃな"フォームは、いいわけではないかもしれないが必ずしも悪いわけではない。反対に、平均的で均整の取れたフォームが絶対的な正解でもない。


だから"とりあえず良いフォームを教えてください"、"誰が正解なんですか?"というお声を頂戴する際には悩んでしまう。


それに対して、
ある種のカウンターとなる言葉がこれだ。

夢はありますか?

夢を語ってくれたら、あなたの力になれるかも。

そもそもフォームは成し遂げたい夢、目的に対する過程・手段でしかない。それを差し置いてフォームがいいの悪いのいうのは、大抵外野である。

なぜわざわざ主人公は"むちゃくちゃなフォームで生きていく"ことをあえて肯定し歌にするのか。多分それが夢に至る過程そのものだとわかっているからではないか。それも、"自分モドキ"でない、自分の現在地と理想のギャップを真っ直ぐ見据えた上で。

自分のコンフォートゾーンを脱するべくむちゃくちゃなフォームで生きていく。反対に夢に到達するためにフォームを正そうとする謙虚さも、主人公はきっと同時に持ち合わせているはずである。

(2番の出だしにその謙虚な気持ちがわかりやすく表れているかな。)

なぁ 地球の色は青だって もしも嘘なら
あぁ 怒りはしないよ この目で見たいな

だから、むちゃくちゃなフォームに
夢はありますか?の問いはセットなのだ、
と思う。

そういう、今のお仕事の本質的な悩みがこの曲で形になっていて、感銘を受けた。



蛇足かもしれないけど。

"そろそろ歳だし目標を達成したらさっぱり引退できるんだけど…"と話しながら、日々のトレーニングを欠かさず、失敗しない安定感と現状打破のトレードオフに悩む、まさに1番の歌詞のような上司がいる。

やれそうかな やれなさそうだな 
やりたいんだけどな
無茶をする歳じゃないし そうさ
どうしもようもない しょうがないって

本日は、今シーズン最後のマラソンレースだったそうだ。レース中のフォームを計測してもらったので早速見させてもらったけど、フォームを表す数値はもう後半に向けて悪くなっていて。


データと共に、

"いつも守っちゃうから攻めたんです、
結果は残念だったけど。
でもそれでよかったんです。"

とひとこと添えられていた。


レース後半には左右の数値も大きく違っていて、安定感が売りの彼からするとむちゃくちゃなフォームだった。でもそれは、社会人として忙しく働きながら、年に数回もない大事なレースの舞台でなんとか"1歩はみ出そう"とする、果敢な挑戦の証に思えた。

いいじゃん、むちゃくちゃなフォーム。
そんな背中悪くもないか。
むしろ好きかも。


世界記録を作るようなアスリートの、惚れ惚れするようなフォームのメカニズムを解き明かすことももろちん研究者のロマンだけど。

でも私はやっぱり、それ以上に、
言ってみれば取るに足らない一人一人の、ぐちゃぐちゃなフォームが好きだ。アスリートと同じくらい、むしろそれ以上に、もがいているたくさんの一般の人たちの力になりたい。

むちゃくちゃなフォームの愛してる
どんな理屈も敵わないな
そばにいようか そばにいたいな
ぬくもりだけは守りたい


そんな感傷に浸りながらをデータを分析しちゃう考え方も、私自身のキャリアも、結構業界ではむちゃくちゃだ。後輩にも先輩にも前述の上司にも迷惑かけまくってる自信がある。


でも私にも夢がある。

この曲の歌詞をお借りしていえば、みんなが安心して "一歩はみ出した" むちゃくちゃなフォームになれるような価値観と文化をつくること。自分の仕事を通して貢献すること。


結果だけが全てであることは残酷だけども、それでも結果を追い求めながら、"むちゃくちゃなフォーム"で試行錯誤するその過程を、美しいものとして残していきたい。

だからもう少し、
私自身もむちゃくちゃなフォームで生きていく。

曲を聞いてそう強く思わされたのでした。

めちゃくちゃなフォームで生きていく
そんな背中悪くもないか
心臓だって ど真ん中を
一歩はみ出して止まらないんだ
ぐしゃぐしゃなフォームで笑ってる
夢はありますか?
あるよ あるよ 君にも見せるんだ

むちゃくちゃなフォームで生きている
いつか会えますか?
そうか そうだ 僕にもやれるんだ

僕らはやれるんだ

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