ボーッと歩いていたら、軽く人にぶつかった。
相手が軽く舌打ちをし、僕は「あ…すいません」と言う。
それが今日発したたった一声だった。

映画やドラマ、小説や漫画。何でもいい。冴えない主人公だろうが、そこには運命の人が現れたり救いの手が差し伸べられたり、そこまでいかなくとも何かしら友人がいたりする。とにかく誰かしらが周りにいる。
現実はそう都合よくいかない。
この話だって、普通に考えればこの後誰かと出会って、僕の寂しい生活を彩ってくれる、そんな展開が待ち受けていると思うだろう。
しかし実際そんな事など起きないのである。 
大学行って授業受けて飯買って帰る。
日々それの繰り返しで、稀に授業中教授に当てられるなどする時以外一切声を発さないし、LINEなど来るはずもなく、SNSも見る専用、偶に誰も見てない独り言を呟くのみだ。

まるで、この世界に要らない人間、存在している意味の無い人間であるというレッテルをでかでかと貼られているような心地がする。
この話に救いなどない。そんな都合いい話などない。何も起きやしない。

今日は道で転んだ。
腕や脚を擦りむいたが、幸か不幸か誰も見ていなかった。1人通り過ぎたが、こちらを一瞥だけして去っていった。
家に帰って絆創膏を貼る。
ため息をつく。
遠く烏の鳴き声が、静寂な部屋に響く。

カップラーメンを啜っていると、LINEのメッセージが(いつぶりか、こんな通知音だったか、そう思うくらい、いつぶりか。)届いた。

お誕生日おめでとうございます!
10%OFFクーポンプレゼント!!

いつ行ったのかいつ追加したのかも忘れた何かの店のやつでした。
誕生日でした。忘れてました。
半額にしてくれよ、と画面に向かって悪態をつく。
傷がヒリヒリする。
空は雨が降りそうで降らない中途半端な様子だった。自分にはこれがお似合いだと言わんばかりだ。

これをあと何十年続けるのかと思うとゾッとする。もっとこう、愛されてる人に寿命を与えられれば良いのに。

自分で道を切り開こう!現状を打破しよう!
おめでたい頭の人に限ってそう言う。
純新無垢だったあの頃から、いつの間に綺麗事を嫌うようになったのだろうか。僕にも、友達100人出来るかな♪と何も疑わずに元気に歌っていた頃があったのだ。

空は相変わらず雲が立ち込めているが、どうせあんなもん水蒸気の塊だ。実質は空っぽだ。空っぽ。空。くう。クウ。

小さな虫が机の上を歩く。僕はそれを潰してやる。この虫にとって、考えられない程巨大な生物に、そんな事を認識する間もなく、呆気なく僕によって殺されてしまった。死はこんなに呆気ないものなのか。こいつはどんな人生を送ったのだろう。巨大な僕より余程良い生活をしていたかもしれない。

そう考えると、矢張り殺しておいて正解だったかもしれない。




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