私達が消えた世界と私達の新たな世界。

(2019/7/20 作成の掘り出し物)


"死は、生きている以上、誰にでも訪れるものです。あの子も、あの子もあの子も、みーんな、いつかは死にます。それは50年後、ゆっくりと訪れるかもしれないし、1秒後、唐突に訪れるかもしれない───。"

私は横断歩道を渡った。その時…
気づいた時には遅かった。

「……あれ?ここは…」
私は目を覚ました。学校だった。
「夢…だったのか。」
私は安堵した。目の前で、友達の美咲と穂乃果が楽しそうに喋っている。
「ねえ、何喋ってるのー?」
私は2人に話しかけた。しかし、2人は私を無視した。全く聞こえてないかのように。
「聞いてる?何で無視するの?」

「そういえばさ…結衣が死んでからもうすぐ1ヶ月だね。」
「そうだね…今度お墓参り行こっか。」
「うん。」

……え?
今、何て?

「私はここにいるよ?」

2人は…一体何を言ってるんだ?私が死んだ?
ありえない。…ありえない。ありえない……

「夢…じゃなかった…?」

信じたくなかった。しかし、誰に話しかけても答えてはくれない。新手の苛めかと思ったが、そんな風には感じられなかった。

「私は死んだの…?じゃあ、今の私は一体何者なの…」学校を出て、とぼとぼと歩いた。向こうから歩いてくる人々は、私が見えてないかのようにすり抜けていく。ように、ではない。実際私のことが見えていない。
その時。

「ちょっと、そこの君。」

誰かが私に話しかけた。一瞬気のせいかと思ったが、

「君だよ君。」
私に話しかけてるようだ。声の主は知らない男性だった。私と同じ歳くらいに見える。平凡な、どこにでもいそうな人だった。

「私…ですか?」
「そうそう。」
「私が見えるんですか…?それとも、私、生きてます?」
「いいや。君は死んでるな。」
「貴方は…?」
「俺も死んでる。仲間だ。だからお前のことが見える。」
彼は私に微笑みかけた。
「俺、山田将太っていうんだ。宜しく。君は?」
「私は…今野結衣です。…宜しくお願いします。」
「ちょっとあっちで話そうか。」

近くの土手で私達は座った。
爽やかな風が吹き抜ける。まだ、自分が生きているような心地がしてしまう。

「その顔、まだ自分の今の状況、信じてないな?」
「勿論ですよ。死んだだなんて。信じられません。」
「心当たりはあるか?」
「横断歩道を渡っていたら、トラックとぶつかって…でも、目を覚ましたら学校にいたんで、てっきり夢かと。でも、どうも周りがおかしくて。友達が、私が死んで1ヶ月だとか言ってて。」
「分かるよ、分かる。俺も夢だと思った。信じたくなかった。」
「貴方はどうして?」
「俺はねぇ、殺された。」
「……殺された!?」
彼はハハハと笑った。
「うん。3年前だったな。夜、歩いてたら、女の子が変なおっさんに襲われてたんだ。だから助けようと思って。そしたら俺が襲われちまったよ。」
彼は今度は豪快に笑った。
「正義心が仇となったって訳。目が覚めたら自分の部屋にいて、夢かと思ったら、やっぱりお前の言う通り周りが俺が死んだ話をしてた。そこで悟った。」
「…そうだったんですか。」
「暗い顔すんな。ここは俺らにとっては死後の世界。超自由なんだぜ?慣れれば楽しい。」
「……でも、孤独じゃないですか。」
「言っておくが、生前の世界に未練残してたって無駄だ。二度と元には戻れない。それに、俺という仲間に出会ったじゃないか。孤独じゃない。」
「貴方は未練は無いと?」
「正直言うと、あるよ。めちゃくちゃある。」
「あるじゃないですか。」
「そりゃ、若くして死んだんだ。まだまだこれからだし、やりたいこといっぱいあったさ。後悔も未練もたらたらさ。やり切れないよ。」
「……じゃあ、」
「でも、さっき言ったように、1度起こった事実は変えられない。悩むだけ無駄だ、無駄無駄。」
「……」
「俺もお前も生きてるんだ」
「…どういうこと?」
「死後の世界で"生きている"。生きているからこうして話してる。生きているからこうして風を感じる。分かる?」
「分からない。」
「その内分かるよ。」

彼は立ち上がると、私に手を差し伸べた。

「ほら。立て。一緒に遊ぼうぜ?勉強する必要はないし、空気を読む必要もない。俺達は"自由"だ。いいね?」

私は彼の手を握り、立ち上がった。

「…うん。」

まだ信じきれてはいないが、何だかスッキリした。胸のつっかえが取れ、靄が晴れた。

悪くない、この世界も。
新しい人生を、精一杯生き抜くとするか。

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