見出し画像

町に作る虚構の門 -町の外と内を繋ぐ可能性-

 豊島区で行われている演劇祭『FESTIVAL/TOKYO』(後、F/T)。この演劇祭では今までに色んな演目が行われていますが、この文章ではセノ派が行った2019年の『移動祝祭商店街』の第1部みちゆきの大塚エリアと2020年の『移動祝祭商店街 まぼろし編』の『みんなの総意としての祝祭とは』、Hand Saw Pressが行った2019年の『ひらけ!ガリ版印刷発信基地』と2020年の『とびだせ!ガリ版印刷発信基地』について、つまりは大塚の商店街で行われていたことを論じてみようかなと思います。

 2019年のF/Tの演目のため舞台芸術家である杉山至さん、坂本遼さん、佐々木文美さん、中村友美さんの4名は戯曲や俳優、演出を前提にするのではない、舞台美術を起点とした場面、情景の創造に関わるプロジェクトに取り組むため『セノ派』というコレクティブを設立しました。2019年の『移動祝祭商店街』では南長崎、池袋本町、大塚の商店街にメンバーが派遣され、その商店街を拠点に舞台美術を作成していきました。大塚の担当である佐々木文美さんは、大塚商店街をリサーチしました。そして大塚駅前のビルの一室をあてがわれ、そこで風船を使った門のオブジェを作成しました。

 公演の日、その門は商店街の中にあるモスク「マスジド大塚」の前に運ばれました。その近くにはF/Tのスタッフによりテントが用意され、モスクの人々から差し入れられたナツメの砂糖漬けを配られていました。そこには佐々木さんと彼女の所属している快快の面々、町に住む人々、演目を楽しみにやってきた人々が集まり、配られたお菓子を食べたり話したり、門の写真を撮ったりと過ごしていました。時間になると佐々木さんから大塚の町に関するレクチャーが行われました。大塚には国籍や宗教の違う色んな人々が住んでいるとのこと。そういえばインド料理屋や中華料理屋、ケバブ屋寿司屋、蕎麦屋、ハラル食材の店などが隣り合ってあって存在しています。面白い商店街だなぁと思います。レクチャーが終わると門のオブジェをみんなで引っ張り出しました。電線に引っかからないように、電柱にぶつからないように、家に突っ込まないように注意しつつ、大塚の商店街を練り歩いていきました。まずたどり着いたのが「バーバーマエ」。名物のバーバーの店主が現れ、参加者と一緒に写真撮影を行いました。そして次は「天祖神社」の境内に移動して神主にお祈りをしてもらい、大塚駅前にある広場「トランパル大塚」に向かって門は進んでいくのでした。

 2020年のコロナ禍の中、佐々木さんは再び大塚の商店街にやって来て『みんなの総意としての祝祭とは』という演目を作り上げて発表しました。それは商店街の至る所に顔出しパネルが順々に現れるというものでした。トランパル大塚で台紙が配られていて、その台紙の指定された場所に行くと顔出しパネルがあり、QRコードのシールを貰えました。そのQRコードを読み込むと、その場所に関する文章やエスペラント語で語られるお祭りやみんなの総意としての祝祭を考える映像を見ることができます。

※2021年02月現在、動画や佐々木のインタビューは以下のサイトで公開されています
https://www.scenoha-festivaltokyo.jp/sasaki.html

 2年に渡って行われた佐々木さんの演目は、外からやって来た人が町に溶け込んで行くプロセスを辿っているように思うのです。インタビューには2019年のリサーチの際、佐々木さんが町を散策していたらバーバーマエの店長が声を掛けてきたことのエピソードが掲載されています。それを切っ掛けに彼女は町に馴染んで行くことになります。大塚商店街の人々がどのように新たにやって来た人々を受け入れて行くのかが見て取れます。その関係が深くなって行くことで、新たにやって来た人々がそこにいることが当たり前となっていくのでしょう。でも、佐々木さんは大塚の住人ではありません。しかし、最早全くの他人でもありません。町だけでなく祭りというハレの場での接続する関係です。そしてその関係は佐々木さんが作る祭りという空間を介して、その祭りにやって来た人々も町との接続が行われることになります。

 『ひらけ!ガリ版印刷発信基地』と『とびだせ!ガリ版印刷発信基地』はA4の紙に描いた原稿を印刷してZINEとして置いてくれるというものです。大塚に用意された場所ではその場で書いても良いようになってました。また『とびだせ!ガリ版印刷発信基地』ではその印刷機をトラックに乗せて色んなところに行ったり、原稿を投稿できるポストを複数箇所に設置されていました。大塚の拠点で原稿を書きながらスタッフと話していると、町の人々がやってきて日記のように書いていく人などもいるとのこと。まさにリアルなSNSです。でもそれが形となり部数の分だけ別の人に渡っていくのです。そして形は残り続けるわけです。棚におかれたZINEを見ていると色んなものがありました。子どもが作ったクイズや迷路。大塚の美味しいレストランマップ。ポエム的なものや広報的なものなどなどなど。本を作るのではなく、A4の紙1枚という気楽さもあり、多くの人々が作品を作ること、発信することを体験することになりました。

 大塚の商店街に印刷機を用意されたことで多くの人が作品を発表することになりました。それが不特定の人々に伝わっていくことになりました。それは大塚に住む人々が作品を介して大塚の外の人々と繋がっていくことになります。

 佐々木さんが行った事で外から内への流れができました。そしてガリ版印刷発信基地によって内から外への流れができました。それがF/Tの中で両方行われていた訳です。F/Tが日常と非日常であるフェスティバルを繋ぐゲートの役割を果たすのです。佐々木さんが門を作品にしたものが外から迎え入れる門ではなく、外へ出ていく門であることも表していた事になります。この門をどのように考えるのか。そこに演劇と日常の接続を考える上での重要なことが潜んでいるように思う訳です。

 長島確さんと河合千佳さんの体制になってから、F/Tの演目はより街中に入り込むものが多くなってきました。さて、2021年はどのような門ができるのか、それがとても楽しみです。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?