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『萌の朱雀』石碑
河瀬監督の映画『萌の朱雀』がカンヌ映画祭でカメラドールを受賞したのは1997年のこと、当時西吉野村の中学生だった尾野真千子を下駄箱でスカウトした、という話はよく知られている。その後尾野さんは女優を目指して上京、優れた演技を積み重ね、2009年には『火の魚』で放送文化基金賞演技賞も受賞している。そして2011年に朝ドラ『カーネーション』の圧倒的な演技で、その名を一気に広めたことは周知の通りである。
その二年後の2013年2月、『萌の朱雀』で主人公みちるが暮らしていた家の前に、記念の石碑ができた。そして2014年、朝日新聞でこの映画が取り上げられたことをきっかけに、私はこの石碑を初めて訪れたのだった。
その後私は石碑に一人で行けるようになることを目指して運転の練習をし、その甲斐あって今では「行きたい」と思ったらいつでも出かけられる。そんなわけで、一年に一度はこの場所を訪れていたのだが、二年前に近畿地方を襲った台風の後は、通行止めになっていたり、時間がなくて石碑のある山の麓(平雄)を通過するにとどまったりで、山の上には行けていなかった。その場所に、今日は久しぶりに訪れたのである。
ここの山の景色は、映画で初めて見た時からまったく変わっていないように見える。家もそのままだ。もう人は住んでいないけれど、家の前に玉ねぎが干してあったり、大和当帰の匂いがしていたりで、人の手は常に感じられる。今日も、大和当帰の匂いこそなかったけれど、玉ねぎはあったし、家の前に備えられた貯水槽はいっぱいで、ホースからは水が出ていた。玉ねぎをぶら下げた誰か、水を出した誰かがいる、というのは嬉しいものである。
映画の中で、主人公みちるは屋根に登る。
その屋根から見える風景は、映画から二十年以上経った今もまったく変わっていない。
多分私はこれからも、毎年のようにこの場所に行くだろう。その時に玉ねぎが干してあったり、貯水槽に水が溜まっていたりすることを切に願う。
河瀬監督は、五年前から、みちるの通学路を辿りつつ桜を見る、というイベントをこの場所で開催している(今年はコロナ禍のため中止)。平雄からこの家までを、舗装された道ではなく、山の中の道を通って歩くのだ。最初にこのイベントを提案した時は、他所から人がくるのが嫌だ、と言った人も多かったそうだが、二年めからは心待ちにしてくれる人が増えたそうだ。私は開催日と勤務日がぶつからなかった第一回と第三回にこのイベントに参加している。アスファルトではない山道を歩きながら、中学生が毎日この道を通って通学していたのか、などと考えることはとても楽しい。このイベントにも、都合のつく限り参加し続けたいと思っている。
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