いわゆる「推し」について(3)の序章

 ふとしたきっかけで今までにないタイプの女優さんに出会ってしまい、その人の演技を楽しみにしていた朝ドラ『カーネーション』がいよいよ始まった、というところから書かなくてはならないのだが、このドラマについては語ることが多すぎる上に、これまでもTwitterなどでさんざん個人的考察を重ねてきたので、改めて何を書こうか、と思うと色々と難しい。というわけで、さしあたって尾野真千子演じる糸子が登場する第6話(一週めの土曜日)の印象を思い出しておきたい。何しろ、私がこの人の演技を見たのは『Mother』と『名前をなくした女神』だけで(『萌の朱雀』はここにはカウントしない)「明るい人」を見たことがなかったので、どんな感じなんだろうかとワクワクしていた。そして土曜日の8時10分、記念すべきその瞬間はやってきたのである。

 「8時!」で飛び起きたヒロインは、大慌てで身支度を整え、バタバタバタっと階段を降り、ご飯をかき込む。このシーンにワザとらしさが全然ないことに、まず「いいぞいいぞ」と思った。作ったようなドジっ子ヒロインとか、考えなしの行動ばかり繰り返す、「明るく元気」というよりは頭にお花が咲いたようなヒロインだったらイヤだなあと漠然と考えていたためである(この時点では渡辺あやさんのことも全く認識しておらず、こういう懸念を持つこと自体もう失礼極まりない、と今では土下座したい気分である)。そしてこの食べるシーンについて、ご飯をつめ込みながらも、汚らしさが全くないことにも「いいぞいいぞ」と思った。単なる行儀の悪いヒロインになっていないところに、すでに心を摑まれかけていたのである。さらに、このシーンを見ながら、私は何度も何度も「この人、本当にあの道木仁美とちひろさん?」と自問し続けていた。時代設定が違うからとかそうことではなく、醸し出す雰囲気から何から何まで、どこにも重なるところがなかったからだ。顔も同じ人かな?と今ひとつ確信が持てないくらいだった。そして、そのたびに「そう言えば、道木仁美とちひろさんも、実は同じ人か?と何度も疑ったのだった」ということを思い出していた。あっという間に無事にご飯を飲み下したヒロインは、テンションを一定に保ったまま、全力疾走で弾丸のように走っていった。このシーンのどこにも「遠慮」というものがなかった。「とにかく一直線の人」ということを刻み込まれ、月曜日以降を心待ちにすることとなったのだった。


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