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妄想伊呂波太夫

 大河ドラマ『麒麟がくる!』、緊急事態宣言で撮影がストップしたため、放送も止まっていたが、ようやく今週の日曜日から再開される。明智光秀を主人公とし、単なる「裏切り者」としてではなく、「仁ある為政者」になろうとした人間として描く試みはとても面白い。これまで裏方として存在していた十兵衛が、これからどのように表舞台に打って出るのかが楽しみである。

 と言いながら、私の楽しみは実は十兵衛様ではない。追っているのは架空の人物として描かれる、旅芸人の女座長、伊呂波太夫である。演じるのがオノマチだから、ということもあるし、これまで『足尾から来た女』、『坂道の家』、『夏目漱石の妻』でオノマチの魅力を存分に引き出した池端さんが、どういう人物造形を見せてくれるのかが楽しみだから、ということもある。また、オノマチという人は役柄次第でいかようにも変わるので、今回はどういう顔が見られるのかということにも大いに期待している。

 前半では、伊呂波太夫の出番は片手で数えられるくらいだった。踊りの名手と言いつつ、いろんな大名とつながりがあり、その気になればかなりの兵を集めることもできる。何よりも衣装が派手だ。ただ、裏の世界を生きる女なので滅多に出てこない。いつも「もっと出せ!」と思いながら見ていた。それが、後半戦になると、どうやら出番が増えそうなのである。なんでも近衛家の関白と姉弟同然に育ったという設定だそうなのだが、あらすじを読まないようにしているので、どのような関係かはまだ摑んでいない。そこで勝手に伊呂波太夫物語を作ってみた。(以下妄想)

 伊呂波の母は旅芸人の娘(仮に「穂経都」(ほへと)という名前だとしよう)だった。旅から旅への暮らしをしていたが、美貌と舞のうまさで大名たちに非常な人気があった。ある時大名に見初められ、穂経都の方も憎からず思っていたので、愛人関係になった。そしてある日、穂経都は自分が身ごもっていることに気づく。しかし道ならぬ恋だけに誰にも明かすことはできない。仕方なく穂経都は、一座の人たちに守られながら子どもを産むが、以来病気がちになった。旅暮らしでは身体を休めることもできず、日に日に病は重くなる。ついに死期を悟った穂経都は、座長だった父親に真実を明かし、赤ん坊の父が近衛家の人間であることを知らせてこの世を去る。穂経都を愛していた父親は嘆き悲しむが、やはり真実は知らせねばならない、という使命感と、貴族とつながりを持てば自分の身にも有利では、というほんの少しの下心により、旅の一座として国々をめぐる際、近衛家に面談を申し入れ、ついに伊呂波の存在を教える。驚いたお公家様は娘を愛おしく思い、引き取ることにする。その後正妻との間に跡取り息子も生まれ、二人は異母姉弟として育つ。しかし伊呂波には旅芸人としての放浪の血が流れていた。所詮妾の子であるし、家が継げるわけでもない。さらに、正妻が自分のことを疎ましく思っていることも感じていた。ある日、旅芸人の一座が奏でる笛や太鼓の音を聞き、伊呂波は不思議な懐かしさに包まれる。そこで伊呂波は習ったこともない舞を、一度見ただけで覚えてしまい、笛の調べに合わせて華麗に舞うのであった。座長は驚くが、そこにかつて見たことのある舞の名手、穂経都の面影を認める。実はこの座長は、伊呂波の祖父とも馴染みであった。座長は伊呂波を座に加え、一座の人間には娘だということにして旅暮らしを続けるのだった。15年が過ぎ、伊呂波は立派な座長として一座を切り盛りするようになったが、いつも心にかかっているのは、かつて生活をともにした弟のことであった。今では関白になり、出世の道を歩んでいる。折りあらば弟を助けたい伊呂波は、いざという時のために懐に金を貯め、様々な人脈をつないで備えているのだった。

 という感じではなかろうか、と思うのだが、どうだろう。(そして最後は、本能寺の変ののち、あっという間に天下から引きずり降ろされた光秀のことを思いながら、次の地へと馬の歩みを進める、で夕日を背景にして終わる。)というわけで、後半も伊呂波太夫からは目が離せない。(というか、伊呂波太夫を主人公にしたスピンオフ大河を作ってもらいたい。) 

 

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