「早生まれの不利は大人まで続く」について

 東大の教授が「早生まれの不利は大人まで続く」という研究結果を発表したそうだ。(https://www.news-postseven.com/archives/20200818_1586893.html?DETAIL

 学生の頃(というのはもう30年ばかり前のこと)、教職の授業で「早生まれのハンディは二十歳過ぎまで続く」というのを習い、早生まれの私は「ハンディを負っていたとは!」と思ったので、この研究発表には「今さら?」という気がしなくもないが、いろいろとくわしく紹介されていたのでまとめておく。

 この論の最大のポイントは、認知能力と非認知能力を挙げていることである。いわゆるテストで測れる学力を認知能力、「最後までやり抜く力」、「感情をコントロールする自制心」、「ルールや約束を守ろうとする心」、「他人と良い関係を築く力」といった、内面の能力や情緒の安定、社会性を非認知能力としている。そして社会的に成功する人間は非認知能力が高いそうだ。これはまあ理解しやすいことである。

 早生まれの子は学力、内面の力、いずれも低い傾向があるが、親が力を入れるのは学力への支援だそうだ。それゆえ、早生まれの子はそうでない子に比べ、勉強時間、読書の時間が長く、塾に行く割合が高く、芸術やスポーツにかける時間が少ない。また外で遊ぶ時間も短いため、人とのコミュニケーション能力を鍛える機会がその分減り、非認知能力が育ちにくいという。そして、この差は入試ではっきりとした形をとるとのことだ。

生まれ月によって生じた差は、入試制度によって固定化されてしまうのです。遅生まれの子供は偏差値の高い高校に進み、優秀な教師や友人と出会い、レベルの高い大学に入学し、一流会社に入社するといった正のスパイラルに乗りやすく、早生まれの子供は負のスパイラルに陥りがちになります。だから、成人になっても差が続くと考えられます。

 この研究では、対策として生まれ月を考慮した評価の修正をすることが挙げられているほか、クラスにおける役割についても、次のような提言がなされている。

今からでもできる対策としては、教職員の皆さんは早生まれの子供は不利であることを認識し、子供たちの力関係に任せず、早生まれの子供にリーダーシップを取らせたりしてみてはどうでしょう。親御さんは学業だけに目を向けず、非認知能力を高めることを意識してほしいと思います。

 こういった研究はあくまでも「傾向」を示すものなので、個別の例を挙げて「違う!」というのは野暮なのだろうが、それでもいろいろ言いたいことがあるのでまとめておく。

1)非認知能力が育たない、と言いながら、偏差値の差を持ち出し、「負のスパイラルに陥りがち」と認知能力の結論にすり替えるのは、話の運びとしておかしいのではないか。

2)読書を親が無理矢理させる勉強と同列にとらえているようだが、読書はしたくてするものであり、こういうマイナスネタに使われると、本好きとしてはちょっとイラっとする。

3)対策として「早生まれの子にリーダーシップをとらせる」と言っているが、リーダーシップを取る取らないは、非認知能力の発達というより、単に外向的・内向的という性格の差によるのではないか。リーダーシップをとらせることでこういう能力が育つのかは疑問だ。

 早生まれの我が身を振り返ると、小学校入学時に学年で一番背が高かった、成績もよかった、という点で、早生まれのハンディなど感じたことがない。確かにぼーっとはしていて、そこが小学校の先生をイラつかせてはいたものの、「最後までやり抜く力」、「感情をコントロールする自制心」、「ルールや約束を守ろうとする心」、「他人と良い関係を築く力」などは人並み以上にあったと思う。確かに内向的ではあったが、これは性格であって非認知能力が低いのではない。

 というわけで、個人的にはいろいろと突っ込みたいところの多い研究結果であった。そして30年前から言われていることが、今になって改めて発表された理由についてもぜひ聞いてみたい。そして早生まれの子どもたちに対しては「くだらないレッテルに負けずにがんばりましょう!」と言いたい。(ちなみにうちは母も私も娘も息子も早生まれである。)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?