「ひろしまタイムライン」について

 「もし75年前にSNSがあったら?」という仮定のもと、1945年に広島に生きていた中学生、新聞記者、新婚主婦が当時のことをつぶやく、というTwitterアカウントができた。ツイートの内容は本人たちの日記、インタビューを基にしており、広島県の高校生が書いているという。7月の終わりごろにTLに流れてきたことでこのアカウントを知った私は、三つともフォローし、8月6日を恐れつつ読んでいた。幸い三人は生き延びたものの、あの日のことはそこにいた人々の目を通した形で語られたし、終戦の日にもそれぞれの思いがつぶやかれていた。こういう形で戦争を辿るのも大切か、と思っていた。

 ところが、20日、大阪にいた中学生シュンが「朝鮮人の群衆」に会い、「敗戦国は出て行け!」と言われ、列車の窓ガラスが割られる、という出来事がツイートされた。これに対し、朝鮮半島出身者への配慮が足りない、として非難の声が起こった。ハフポストの記事から抜粋しておく。(https://news.yahoo.co.jp/articles/26d081c3f6899c80e8ce6f3108b3bf7198ce83da)

日頃から特に朝鮮半島出身者に対する差別や誹謗中傷の温床となっているTwitterという場所で、この気持ちを注釈なしで投稿するのは適切ではないのではないか
戦争の全体像を知らない民間人個人の視点や当時の感情を共有することに主眼を置くあまりに、朝鮮半島出身者に対する戦時中の日本の加害責任についての視点が置き去りにされ、不適切な伝え方になっているのでは

(ただし、私はこれらの批判の声の原文を読んだわけではない。これはYahooの記事の引用に過ぎない。) 

 こうした非難に対し、NHKは

8月20日のシュンが発信した、「大阪駅で戦勝国となった朝鮮人の群衆が、列車に乗り込んでくる」と関連のツイートは、シュンのモデルとなった男性が、広島の自宅から両親の故郷である埼玉県に移動する途中に体験したことを伝えています。
当時中学1年生だった男性にとって、道中の壮絶な経験が敗戦を実感する大きな契機になったことに加えて、若い世代の方々にも当時の混乱した状況を実感をもって受け止めてもらいたいと、手記とご本人がインタビューで使用していた実際の表現にならって掲載しました。

 と表明している。(https://www.nhk.or.jp/hibaku-blog/timeline/434538.html)

 これについては、TLで「令和の価値観をここで持ち出すことはない」、「あくまでもシュンの目線なのだからこれでよい」、という意見も見た。しかし私は、問題はそこではないと思う。そこで「情報」というものをどう扱うべきなのか、ということについて、考えをまとめておきたい。

 最も引っかかるのは、上に挙げたサイトでのNHKの次のような注意書きだ。

ご本人の日記は、8月17日~27日まで空白です。
8月15日~21日までのツイートは、後年ご本人が書かれた手記とインタビュー取材をもとに掲載しています。
(新井俊一郎『激動の昭和を生きて』2009年)

 ご本人の日記に基づいているのであれば、「こうした記述は日記の原文をそのまま引用しています」などといった注をつけてツイートしてもよかっただろう。しかし、日記そのものは、この間何も書かれていないのだ。空白の日記のところに、「朝鮮人」云々、という記述をなぜわざわざ入れる必要があったのだろう。これは捏造以外の何物でもないのではないか。

 いやいや「捏造」とは言葉が過ぎる、本人の手記とインタビューに基づいているとあるでしょう、というのであれば、その原文を示し、どこからどこまでがオリジナルの通りなのか、どこからが創作なのかをはっきりさせなくてはならない。そして、この部分が純然たる創作だったというのなら、やはり配慮に欠ける表現だったと言わざるを得ないだろう。

 記者が記事を書いたり、学生がレポートを書いたり、研究者が論文を書いたりするときは、原典にさかのぼること、引用部分と自分の意見の部分を分け、区別のつくように書くことを遵守しなくてはならない。ツイートを書いているのは高校生ということだが、監修はあくまでNHKなのだから、ここはきちんと責任を持つべきではなかったか。「ハフポストではNHKの広報担当者に、ツイートの意図や批判、ツイートが制作された詳しい経緯について現在問い合わせています。回答があり次第アップデートします。」ということだけれど、その回答が先のNHKのブログだとしたら、答えになっていない。オリジナル資料である新井俊一郎氏の『激動の昭和を生きて』(2009年)か、インタビューの原本を示してもらいたい。(などとエラそうなことを書いたものの、私はハフポストに記載された、シュンくんの日記への批判を自分の目で確かめていないので、その点はよろしくないと十分に自覚している。)



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