ユーミンの発言について

 『サンスポ』に、安倍首相辞任をめぐる芸能人たちの反応が記され、その中にユーミンの発言が紹介されていた。

安倍夫妻と親交が深いシンガー・ソングライター、松任谷由実(66)はニッポン放送「松任谷由実のオールナイトニッポンGOLD」で、「テレビでちょうど(会見を)見ていて泣いちゃった。切なくて」と思いを吐露。安倍氏とは「私の中ではプライベートでは同じ価値観を共有できる、同い年だし、ロマンの在り方が同じ」と明かし、「辞任されたから言えるけど、ご夫妻は仲良しです。もっと自由にご飯に行ったりできるかな」などとねぎらった。(https://www.sanspo.com/geino/news/20200829/geo20082905030016-n1.html)

 この発言にはかなり驚いた。もともと私には、芸能人の政治発言を止める気はさらさらない。思ったことは堂々と言えばよい。しかしこの言葉は、それとも少し違う気がする。具体的な政策に対する自分の意見ではなく、あくまでも個人の印象だからだ。で、私が驚いたのは「同じ価値観を共有できる」、「ロマンの在り方が同じ」という発言である。あくまでも「プライベートで」と言っているので、同じ価値観と言っても「マスクを配る」とか「いちいち特定の企業に中抜きさせる」とか「政府としての行事に個人的な『お友だち』を呼ぶ」とか「国有地を払い下げる」とか、そういう価値観のことを言っているのではない、と取れるかもしれない。しかし、首相を辞任したことに関するコメントなので、こういう人物と価値観が同じ、と言われると、ユーミンも所詮そういう人だったか、と思わざるを得ない。

 これはあくまでも個人的な意見なので、安倍首相が好きな人、ユーミンのことを、思想も含めて丸ごと好きだという人、ユーミンの曲は好きだが、個人とは切り離して考える、という人にとって、この文章は意味がない。このことをあらかじめお断りした上で、この発言に感じた違和感をまとめておく。

 かつて、ユーミンの言葉でびっくりしたのは、1)喫茶店に張り込んで女子高生などの交わす会話を聞き、今求められているのはこういうこと、とリサーチする、2)アルバムを作るときは「捨て曲」を作ることが大切、の二つである(出どころは確か自伝『ルージュの伝言』)。

 作品に対して、第一に考えるのは一般受けだという点、どの曲にもベストを尽くすことはしないのだ、という点で、私の好きなタイプの人ではない、ということがわかった。さらに、アルバムを聞いてみたら、最初の一曲はきらびやかでいい曲なのだが、あとはそうでもなかった。「見せ方」のうまい人、ということもその時に強く感じた。これに対して私の好きな人は、1)自分の作りたいものを正直に作る、ただし独りよがりに陥るのではなく、威風堂々としたものを作る、2)妙な策略を練らない、というタイプである。おまけにユーミンは、貧乏くさいものが嫌いだ、と明言していたこともある。要するに泥くさいものが嫌なのだろう。この辺り、岸信介を祖父に、佐藤栄作を大叔父に持つ安倍さんとは、「社会的強者」としても共鳴するのかもしれない。

 かつて工藤静香が「私の中にユーミン的な要素は一滴もない」と語っていたことがある。それを聞いた時「同じ同じ!」と思ったことをよく覚えている。今回の発言で、それがますます明らかになった。あと一つ知りたいのは、両者が共有する「ロマンの在り方」である。どんなロマンなのだろうか。

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