日清とナイキ

 大坂なおみさんが不当に殺害された黒人7名の名前を入れたマスクをつけて全米オープンに出場し、見事2年ぶりの優勝を成し遂げた。この行為はアメリカでは賞賛されているが、不思議なことに日本では一部から反感を買っているらしい。いくつかの記事を読んだところ、テニスだけしておいてもらえたら、というスポンサーもあったそうだし、一般の人たちの「スポーツに政治を持ち込むな」という声や「犯罪者を庇うことが差別をなくすとは思えない」という、「ちょっと何言ってるのかわからない」意見も読んだ。

1. スポーツに政治を持ち込むな、について

 オリンピックには、政治を持ち込むことは禁止されているそうだが、全米オープンにはその規定はないはずだ。だから、スポーツを通じて訴えを起こすというのは大切な行為だと思うのだが、それの何が悪いのだろうか。

2. 犯罪者をかばう?

 この手の主張をする人がよく挙げるのが、犠牲者と犯人の写真を並べることである。犯人のほとんどが黒人→黒人は犯罪者である→黒人の権利の主張することは犯罪者をかばうこと、という論理だ。先日つるのさんがやらかした「差別を助長しているのは紛れもなく犯人本人」という発言と、根っこは同じである。理不尽に殺された黒人の権利を訴えかけているのに、「犯罪者の多い黒人の権利を訴える」、すなわち「犯罪者の権利を訴える」、とすり替える。幼稚な論理だと私は思うけれど、残念ながらこれに賛同する人も多い。

3. スポンサーの姿勢

 ただ、上の二つは一般市民が勝手にわちゃわちゃと言っていることなので、もちろん色んな意見があるだろう。私が気になったのは、大坂選手に対する二つのスポンサーの姿勢である。

日清は、9月1日に次のようにツイートした。

ついに始まるグランドスラム!どんな応援をすれば大坂なおみ選手の勝利に貢献できるのか色々と考えた結果、大坂さんのことを好きになってもらえたら勝ちだなという結論にたどり着いたので、かわいい情報を置いておきます。大坂選手、頑張れ!(https://twitter.com/cupnoodle_jp/status/1300553999888691201)

 そして、広告には「原宿に、いきたい。なおみ」の文字があった。

 これに対し、ナイキの広告には次のようなキャッチコピーがついている。

この勝利は自分のため
この戦いはみんなのため(https://twitter.com/nikejapan/status/1304909292928073728)

 全米オープンの前の大会で、大坂選手が黒人差別を理由にボイコットしようとし、大会側がその主張を組んで日程を修正、大坂選手もそれに応えて出場、という経緯があった中、日清はこの「政治的表明」には一切触れず、あくまでも「かわいい情報」で大坂選手の魅力をアピールした。これに対しアメリカに本社を持つナイキのコピーは、試合での勝利と社会に対する戦いを対比させ、大坂選手の立ち位置を見事に表現している。

 これを見て、日本では今でも「女の子は可愛げがないと好きになってもらえない」ことになっているんだな、と思い、「日清、時代に遅れてますよ」などと思ったのだが、実際はそうでもないようなのだ。日清の古さ以上に私が驚いたのは、ナイキのCMのリプライに「ナイキはもう買わない」などという否定的なものが多数あったことだ。やはり日本では、「原宿にいきたい」という大坂さんの方が好かれるのかもしれず、私が勝手に古いと感じた日清は、実は「日本人のことがわかっている」のかもしれない。

 ともあれ、この二つのCMを見て、私は一足だけ持っているスニーカーがナイキでよかった、と思ったのだった。

 




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