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吃音っ子の治療にGoogleフォームを活用しよう!

こんにちは!
言語聴覚士(げんごちょうかくし)のななさんと申します。
言語聴覚士は、ことばの発達や回復を支える国家資格の専門職です。

今回の記事では、Googleフォームを使った吃音臨床での親御さんとの連携についてお話します。最後に、わたしが実際に作成したファイルをダウンロードできるページが付いています(300円)。お仕事道具なので、有償でのご提供とさせてください。

 こちらの記事を参考に自分でつくってもよし。データを購入いただき、空いた時間をそのほか有意義なことに使うもよし。

吃音とは

 吃音、いわゆる“吃り(どもり)”は、多くのケースで3〜5歳の時期にはじまることばの症状です。話しはじめの音を繰り返したり、声がつまって出なくなったり、音を伸ばすように話したり…という代表的な症状が現れます。
吃音の専門家である言語聴覚士は、吃音の人やその親御さんのご相談に乗ったり一緒に話す練習を行います。

吃音用の記録用紙

 吃音の治療には、年齢や生活状況などに合わせていくつかの手技・手法があります(リッカムプログラム、DCMアプローチ/環境調整法、流暢性形成法、メンタルリハーサル法など。本記事では詳細は割愛します)。
 多くの治療に共通するのは、7〜10段階のスケールで日々の症状を記録すること

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(紙の重症度記録表)

 図のようなチャートにぽちぽち点を書き、症状の経過を把握していきます。
 紙の記録用紙を言語聴覚士が親御さんにお渡しし、親御さんが毎日記録を付け、来室した際に提出し、言語療法士はコピーしてカルテに貼り付け、原本をお返し、親御さんはまた記録を続ける…。このような方法で記録のやり取りをしています。

 この紙の記録、治療が長期になるとけっこう面倒。そして、このIT化、デジタル化のご時世にもかかわらず、いまいちアップデートされていない!そう思います。定量的データなのでどちらかといえば、ITと相性がいいはずなのにね。

さくっとGoogle使うのどうかな

 そこで、わたしはGoogleフォームを使っています。専用のデザインではないので理想とは言えませんが、無料のサービスですべてのデータを1箇所にまとめることができ、柔軟に変更が効くので、Googleアカウントをお持ちであれば現時点のベストかなと思います。

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(Googleフォーム作成例)

図のようなフォームを使い、記録を日々送信していきます。過去の記録が新たな記録で上書きされることはなく、送信された内容はすべて蓄積されます。

データのまとめ

 そして、データをまとめるには、Googleスプレッドシートが便利です。

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(回答欄とスプレッドシート出力ボタン)

フォームの「回答」を確認するタブを開き、右上のスプレッドシートボタンを押すと、CSV出力を行ってくれます。

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(タイムスタンプ+各入力データの一覧)

スプレッドシートに自動で追加されていくので、いちいち手作業でコピーする必要はありません。

グラフに起こすのも簡単です。Googleスプレッドシート上ではじめの設定のみを行ってしまえば、あとはGoogleがフォームの入力と同期して、グラフの続きを勝手に追記してくれます。

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(10段回の評価をグラフに起こしたもの)

紙のグラフデータと遜色ないですよね!

ただし、送信データが無かった日がグラフに反映されないのが気になる、という人は、日付以外無記入の行を挿入するといいみたいです。

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(データが無い日の欄をつくると、グラフ上にも反映される)

Google共有フォルダの活用

保存する場所をGoogleクラウド上の共有フォルダに指定すれば、わざわざメール添付で送る手間なしに、いつでも好きなときに担当セラピストと患者さんの両サイドが閲覧できます。このフォルダ共有機能はとても便利で、音声データのやり取りを簡便に行うことができます。

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 (フォルダ共有機能を使用)

 吃音の臨床に限らず、言語療法では録音音声を活用しての治療を頻繁に行います。ですが、これまで音声データをメール添付でやり取りしていたときには、送る際にひとこと添える必要があったり、データサイズを気にしたり、事務処理上の煩わしさがありました。この、共有フォルダに直接保存してもらう方法を取るようにしてから、そこのストレスが一気に軽減しました。もちろん、訓練室内で撮った発話サンプルや練習の例なども、以前より気軽に共有しています。

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(共有フォルダを活用しての臨床例)

 録音データは残していても忙しさから整理が追い付かず、聴くことを億劫に感じることが多かったのですが、この方法にしてからデータを探す手間が省けて気軽に聴けるようになりました。みなさまからの録音音声は、ランチやコーヒータイムを取りながら、筋トレをしながら聴かせていただいております(笑)。同じフォルダ内にデータがまとまっていることの利便性ははかりしれません

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(録音した音声をどんどん保存する)

 Googleドライブをはじめ、Googleのサービスは双方がGoogleアカウントを持ってさえいればすべて無料で使用できるので、使用したことのない方はぜひ一度試してみてください。

そのほか、考えられる利点と改善点

以下に、利点と改善点をまとめます。

GOOD
✔︎ 紛失や破損、持参忘れのリスクが少ない!
✔︎ リアルタイムで確認(来室時以外にも)
✔︎ セラピスト⇄クライエント間の相互性
✔︎ システムを無料で利用
✔︎ クライエントに合わせて質問項目をカスタマイズ
✔︎ 面会時間を最大限有効に
✔︎ 過去のデータの蓄積を振り返るのが楽
✔︎ データをグラフなどに自由に編集
BAD
✔︎ Googleに不慣れな人はとても多い
✔︎ リンク先に飛ぶ一手間
✔︎ 仕様上、自分が送ったデータを確認しづらい
✔︎ セラピスト側の業務の区切りがなくなりやすい/時間外の作業が発生する

GOODについて:補足👉

✔︎ 紛失や破損、持参忘れが少ない!

 Googleフォームは自動保存なので、データが消えることは基本的にはありません。紙のデータで考えられる紛失や破損、持参忘れの可能性が低いです。

✔︎ リアルタイムで確認できる(来室時以外にも)

 患者さんが訓練室に来たときに持参した記録をその場で確認するのではなく、記録したそのときに担当セラピストがリアルタイムで把握できます。紙の用紙の場合、たとえば、患者さんがまったく日々の記録をつけておらず、来室の前日に記憶をたよりにまとめて記入されていた場合、担当者からは判別できません。そのばあい、不正確なデータをもとにミーティングを行うことになってしまいます。フォームの場合には無慈悲なタイムスタンプがありますので(笑)、そういった記録のあいまいさはありません。

✔︎ クライエントに合わせて質問項目をカスタマイズできる

 患者さんによって環境調整法の勘所(かんどころ)は違います。チェックリストをそれぞれに合わせて作成し、面談の度に調整を加え・更新していくことができます。(項目例:ゆっくり話す/質問を控える など)

✔︎ 面会時間を最大限有効に使える

 データのやり取りを事前に済ませているので、当日は情報を共有した状態からスタートし、さくっと本題に入ることができます。事務的なやり取りを最小限にして本質的な話に時間を割くことができます。話をまとめるのが苦手なわたしには、ここの部分がかなり快適に感じられ、もう紙のグラフには戻れません(笑)。

BADについて:補足👉
✔︎ スマホやGoogleに不慣れな人には難しい

 多くの人は、Googleのメール以外の機能を使用したことがありません。場合によってはレクチャーが必要です。

✔︎ リンク先に飛ぶ一手間がある

 わたしの場合には、面接が終了した直後にフォームのリンクをメールでお送りします。URLがわからなくなることがあったり、そのページを開くひと手間があることは今後の改善点でしょう。

✔︎ 仕様上、自分が送ったデータを確認・修正しづらい

 Googleフォームはもともとはアンケートフォームや問い合わせフォームを想定されてきる機能なので、これまで送ったデータをフォーム内で確認するには不向きです(結果は円グラフで表示される)。そこは、スプレッドシートとうまく組み合わせていく必要があるかなと思います。

✔︎ セラピスト側の業務の区切りがなくなりやすい/時間外の作業が発生する

 これは良し悪しですが、面会時間外にも仕事をすることになります。そもそも、カルテを書いたり、検査を集計したりと、セラピストの仕事にはもともとそういう側面はありますね。

 ただ、保険診療ではそうした時間外の作業分のコストを請求する仕組みが現状ないので、残業コストは施設か個人の持ち出しになってしまいます。

 それと、公的機関では患者さんとセラピスト間でのメールのやり取りやデータのやり取りを禁止しているところがあったり、グレーだったりする場合があるそうなので、その場合はどうするのかという課題もあります。

臨床のデジタル移行をどんどんすすめていこう!

吃音の記録フォームにかぎらず、言語療法界隈はいまだにデータの紙ベース保管が主流です。知能検査の結果を電卓で集計したり、紙で書いた記録を電子カルテに打ち込むひと手間だったり。デジタルではまかなえない範囲もおおくありますが、人の手による温かみ…を大切にするためにも、膨大な手作業をショートカットする技術をどんどん取り入れていきましょう。

以下の有料ゾーンに含まれるもの

1.記録用Googleフォーム(共有)
2.Googleフォームのデータが反映されるグラフ(設定済)
※データは、「クラウド上にあるファイルの共有」なので、
 直接編集を加えると、閲覧者全員に見えてしまいます。
 必ず複製して使用してください。

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