衝撃

俺は小学校時代はマンションの3階に住んでた。真上はお金持ちのお嬢の別宅でたまにしか泊まりに来なかった。その隣室は設計士の兄貴と高校生の弟が二人で住んでた。弟の方はいつしか薬物にはまってしまい、よく屋上への踊り場で接着剤か何かの缶から吸引してた跡が残ってた。

ある時、暇だった俺がやることもないのでグローブとボールでマンションの1階出口付近でボールを壁にぶつけてはキャッチする遊びしてると建物の影からその薬物兄ちゃんがぬっとでてきた。俺は一瞬びびったが兄ちゃんは優しい感じでこうやるともっとうまくできるよとグローブの使い方を教えてくれた。

それから数日後親父とでかけようとすると兄ちゃんとでくわしたが兄ちゃんは親父を避けるように建物の影に隠れた。親父は俺にちょっと待ってろといい、兄ちゃんを追いかけた。しばらくすると親父が戻ってきてまた薬物をやっていたようなのでやめた方がいいと注意したと言ってた。

さらにしばらくたって、夜に確か家族で戦争の記録かなんかの特番をみてると外でドン!と大きな音がした。2、3分経ったころだろうか、家のチャイムが続けざまになった。でてみると1階に住む女性で母とちょっと親しかった。なんでも大きな音がしたので窓の外をみると人が倒れてるようにみえる。怖いからいっしょに来てくれというのだ。その前に親父が3階のうちのベランダから下を確認した。俺と妹にはみるなといい、下にむかった。みるなとは言われたが俺はみてしまった。人が倒れていて血がその何倍もの大きさで広がっていた。親父があてた懐中電灯の光が当たった部分の血だまりからは寒い時期だったので湯気がたっていた。その光景が今でも忘れられない。妹もみたがったがこれはさすがに妹には見せない方がいいと思いみせなかった。

死んでいたのは上の兄ちゃんだった。自殺だか事故だか遺書もないのでわからないままだった。あとで両親とくに母親が亡くなってからは彼の兄貴も多忙でかまってもらえず、随分寂しい思いをしてたとかきいた。

その件からさらにしばらくたって小雨の降る日、俺は傘さしてマンション1階の入り口付近にさしかかったとき、いきなり傘にズシンとくる衝撃をうけて転びそうになり面食らった。ちょっと経験したことない異様な感じだった。誰かが上から何か物でも落としたのかと思った。しかし辺りにはそれらしいものは何もない。傘にもダメージはなかった。でも俺はすぐにあの兄ちゃんのこと思い出した。あの世に行く前に俺に強めの挨拶していったのだろうか。

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