ハプニングの回転数

ひと昔前と言われるのでしょうか。
道を走る車のほとんどがマニュアル車だったので、私もマニュアル車の免許を取りました。

当時は男の子はマニュアル、女の子はオートマ限定というのが多かったように記憶しています。
私もマニュアルの免許を手に勇ましい気分を味わったのを覚えています。

最近めっきりお目にかからなくなったマニュアル車には、ギアレバーが付いていました。
このギアを踏み込んだエンジンの回転数に合わせてがこがこと変えていくのが運転する楽しみでもありました。

ギアと回転数が合っていないと、なんだかおかしな感じになるのです。
回転数が足りなければ、すこんとエンストするし、回転数が高すぎると、ものすごい唸り声をあげながらゆるゆると歩く獣のようになってしまいます。

つまり、ちょっと怖いです。

ハプニング。
思いもよらないハプニングが起こったとき、
この回転数を感じます。

つまり、ちょっと怖いです。

ものっすごいスピードで自分の中の何かが
ぎゃんぎゃん回っている
ギアはローとニュートラルを行ったり来たりしてるのか、
身体はゆったりと泳ぐようにしか動かない
永遠に感じる一瞬

「他人に迷惑をかけてはいけない」と
いつからか命題のように掲げてきた私は、
周りに知らない人がいると結構気にしぃになります。

夜も更け、静まり返ったキャンプ場。

食材は車にしまった方がいいよね
と姉と相談し、
でももう寝てる人もいるかもしれないからリモコンキーのピピッて音、響くし気になるよね
と話し合った結果、姉はリモコンキーから緊急用の鍵を抜き取り車を開けました。

ふぁんふぁんふぁんふぁんふぁんふぁんふぁんふぁんふぁんふぁんふぁん

！！！！！！！！！！！！！！！！！

突然静かなキャンプ場に鳴り響く警告音。

ふぁんふぁんふぁんふぁんふぁんふぁんふぁん

血の気の引く音。

ふぁんふぁんふぁんふぁんふぁんふぁんふぁん

っっっっっっっ！！！！と声にならない声。

ふぁんふぁんふぁんふぁんふぁんふぁんふぁん

車と荷物の間を行ったり来たりと走り続ける姉。
たぶん、何かを探している。

ふぁんふぁんふぁんふぁんふぁんふぁんふぁん

よく分からないけど、姉にくっついて走る私。

そう言えば若い頃劇団の先輩が
「新人の頃は仕込み(舞台のセットとかを作る作業)の時は何やったらいいか分からなかったからずっと舞台の上を走ってたよ。ほら、何かやってる風に見えるじゃん？」
とか言ってたなー、なんて急に鮮明に蘇ってくる。

ふぁんふぁんふぁんふぁんふぁんふぁんふぁん

車の脇にしゃがみこみ、カバンの中身を地面に撒き散らかし始める姉。

ふぁんふぁんふぁんふぁんふぁんふぁんふぁん

とりあえず携帯のライトで
それを照らしてみる私。
緊急用の小さい手元灯りはポケットに入っている。

ふぁんふぁんふぁんっっ……

静寂が戻った。

キャンプ場は静けさを取り戻したけど、
私たち姉妹はなんていうか、
ものすごい回転数だった。

アドレナリンが出過ぎて、たぶん髪の毛も何本か抜けた。

アドレナリンが出まくっているので、
この後は当然の流れのように笑いが止まらなくなりますよね。

申し訳なさといたたまれなさと
押し寄せてくる笑い

つまり、ちょっと怖いです。

そして襲ってくる何とも言えない充実感のような感覚。

なんか、達成したね！みたいな。

いや、何も達成とかしてないんです。
ハプニングなんです。
おろおろバタバタしただけなんです。

でもなんか面白くなっちゃうんです。

ハプニングだから。
一大事だから。

回転数って、人によってギアの入り方が
違うよなぁなんて思いました。

姉はいきなりトップギアに入るタイプ。
私はニュートラルに入るタイプ。

でも、どちらもぎゃんぎゃん回っているんです。

テンパる、なんてことばがありますが、
私はテンパっているのが伝わりにくいそうです。

ぼーっとしてるように見えるみたいですが、
私の中ではぎゃんぎゃん回っていたりします。
コマが高速で回転してると止まってるように見えるのと似てると思います。

なので、みなさんも
もし周りに、大変な状況の中
ぼーっとしてるように見える人がいたら、

あ、ひょっとして
ものすごくテンパってるのかな？

なんて声をかけてあげてください。