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女王陛下のお気に入りの感想(ネタバレあり)

神戸でシネマクティフのマンスリーシネマトークに参加させて頂く前にOSシネマズミント神戸で鑑賞。
淡路島で仕事してた時期に毎週バスで観に来てた映画館。懐かしい。

アカデミー賞ノミネートで騒がれている作品という前情報しか無かったので、王室モノだしお堅い映画なのかなと思って観たけど、ブラックジョーク全開で描かれる2人の女の対決に最後まで釘づけ。めちゃくちゃ面白かった。

●三女優の超絶演技合戦

とにかくメイン3人のキャラクターが強烈過ぎて彼女たちが起こすアクション一つ一つにこちらも翻弄されっぱなし。

前半はエマ・ストーン演じるアビゲイルのサクセスストーリーをメインに楽しんだ。
最初の彼女に起こる不幸がいちいち酷いんだけど、エマ・ストーンの分かりやすく表情に出し過ぎな演技がコミカルで笑える。
女王とサラの情事を初めて目撃した時の「うおおお!マジかよ!」って顔とか最高。

あとどんな状況でもハートがあまりに強過ぎるのが観てて気持ちいい&狂気も感じる。
個人的にはここまで全く心が折れない人は悪魔を見たのチェ・ミンシクとか思い出した。

旦那の出世の為にアン女王を操りながらも、彼女に対してちゃんと愛情も持ち合わせている絶妙なバランスをレイチェルワイズが演じきっていて言う事ない素晴らしさ。
弁は立つし男にも引きを取らない凛とした格好良さがあるけど、立ち回りに関しては正直過ぎる性格ゆえになりふり構わないアビゲイルに比べると不器用。
前半にアビゲイルにアドバイスした「お人好し過ぎる」という言葉が、そっくりそのまま返されていく後半の展開が本当味わい深い。

中心になるアン女王を観てて一番連想したのはフォックスキャッチャーのジョン・デュポンかな。
周りの人間から表面的な好意を受け過ぎて本当に誠意を持って向きあってくれた友人を遠くに追いやってしまい悲劇的な終わりに向かっていく展開がちょっと似てる気がした。
まあこの人はどっちの好意も分かってて、その状況を楽しむ強かさもあるし、デュポン氏ほど不器用じゃないんだけど。

あと少女の様な素直さの裏に17回も子供を亡くしたという心の傷が垣間見える瞬間が切ない。
ウサギは亡くなった子供達の象徴だから画面いっぱいのウサギで映画が終わっていくのは彼女にはもう心の傷しか無い様に見えて悲しかった。演じたオリヴィア・コールソンがアカデミー賞で主演女優賞取ったのも納得でとても深みのあるキャラクターだった。

辛気臭さゼロのストーリー

そんな感じで登場人物一人一人の心境とか考えると結構重い話でもあるんだけど観てる間は笑ってるかハラハラしてるかのどっちかで全く辛気臭い映画じゃないのが凄い。

まず宮廷内の日常ギャグが小気味良くて忍び笑いが止まらない感じ。
意味のわからないダンスからの女王ブチギレからのエマ・ストーンの情事目撃の流れ最高。

サスペンス的には紅茶に毒を盛るシーンからめちゃくちゃハラハラした。あのシーンから2人の牽制合戦が命のやりとりに突入していくし、全然先が読めなかった。

ヨルゴス・ランティモス監督作はロブスターだけ観てるけど、エンターテイメント度は格段に上がっててこちらの方が断然好み。

●絵的なゴージャス度

美術や衣装が本当素晴らしくて画面のゴージャスさが半端ない。全カット美しく映画館の大きいスクリーンで隅々まで見てるだけで幸せ。
広角レンズでそこに人をポツンと置く事でこの場所の寒々しい虚無感が滲み出てる感じも凄い。

撮影監督は最近のケン・ローチ作品をよく任されてるロビー・ライアン。
「わたしは、ダニエル・ブレイク」にも感じたけど、ドキュメンタリーっぽくただ人間を観察する様な冷たくもユーモラスな目線がヨルゴス・ランティモスの作風とも凄く合ってると思った。

対決の決着の格好良さ

この映画で一番熱いと思ったのはサラが送った手紙の顛末。
ポジション争いは結局アビゲイルが勝利はするんだけど、僕は彼女が結局自分の事しか愛せない人に思えたので、サラの愛情を示したラブレターを読んで自分には踏み込めない領域を無意識に悟った様な涙にも感じた。
色んな解釈が出来る凄くいいシーンだし、そこからウサギエンディングまでの甘くない流れ、なんて言っていいのか分からないけど苦くて大好き。

●ウチの死んだウサギ

あと僕はウサギ飼った事があるので分かるんだけど、基本的に声は出さない動物だし苦しんで鳴き声をあげるっていう状況は相当なので、あの踏んづけられて後ろ足がぺたーんってなるシーンは必要以上にドキドキした。この映画で1番心が痛んだシーン(うちのウサギは最初から最後まで全く鳴く事無かったなぁ)

映画には出てない以前飼ってたうちのウサギの写真で終わっときます。

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