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キックスの感想(ネタバレあり)

色んな人の前評判は聞いていて、ようやく京都も出町座でやるということで急いで観てきた。


エア・ジョーダンのスニーカーが彼らにとって、いかに価値があるかについての解説はパンフにも書いてあるけど、学生時代とかに「あれさえ手に入れば俺は最強になれるのに!」というモノって誰にでもあったと思うし、すごく共感しやすい。

故に彼がチンピラに靴を奪われるときの屈辱は遠いアメリカの治安が悪い地域の話なのに、自分の事の様に身近に感じて本当に胸が痛む。(囲まれ踏みつけられるのを疑似体験するような地べたから這いつくばる様に見上げるカメラワークが本当嫌過ぎて素晴らしい)

当然そのまま終わっていくはずもなく、見るからに危ない方法で周りを巻き込みながら主人公のブランドンが靴の奪還に挑むんだけど、どんどんバイオレンスな事態になっていき正直全然収拾がつく気がしなくてかなりハラハラした。

宇宙飛行士姿のブランドンだけが見えてるイマジナリーフレンドは地に足が着いていないブランドンの幼い子供心を象徴していると思うんだけど、こういう存在とお別れする展開に僕はめっぽう弱いので彼が死ぬ事でブランドンが大人になっていく所はかなり泣いた。
靴が無ければ自分に価値がないと思っていたブランドンが、自分に価値があるからこの靴が相応しいのだと通過儀礼を乗り越え大人の階段を上って、心に溜めてた歌を口に出した瞬間終わっていくラストの切れ味が最高。


ブランドンだけじゃなく全ての登場人物を生身の人間としてしっかり描けていて、特に悪役を懲らしめろ!という話に転がっていかないのが良かった。
一番悪いフラコにしてもマーロンの話を聞く感じだと、弱者側にいた人間だからこそ荒れていった男な気がするし、だからこそ息子には弱者側にいて欲しくないと心から願っているのが切ない。この世界で生きていくには、このやり方しかないと信じ切っている。

最後の対決でブランドンが乗り越えた葛藤が、フラコ親子にとってもちょっとした救いになってるのが本当優しい。

もちろんマハーシャラ・アリは出てくるだけで最高。相変わらず佇まいだけで場を攫っていく存在感。
彼が決して怒らずにブランドンへ自分がやった事の責任に気づかせるシーンは怖さもあるけど、男として乗り越えられると信じている気もして、圧倒的なカリスマ性爆発の素晴らしいシーンだった。

あと友達2人も良かった。
ブランドンを下には見てるんだけど、なんだかんだ最後まで付き合ってあげる距離感が絶妙。
ラスト血まみれで倒れてるブランドンに2人がかける言葉がとても軽く笑わせてくれるので、あんまり偉ぶった印象を残さないで映画が終わっていくのも素敵。

前評判も知ってたし期待はしていたけど上映時間87分しかない中で、ノワール的な要素やジュブナイル的な要素などをタイトにまとめた監督のジャスティン・ティッピングさんの手腕がとにかく凄くて今後の作品も本当楽しみ。
パンフ読んだらライアン・クーグラと幼馴染みという情報が載ってて、この辺の映画人ネットワークどうなってんだろうか、、、

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