タオ、糸島で迷い猫となる。ショローと子猫 その3
タオの発情
ハラハラドキドキの引っ越しから1か月半が過ぎた11月下旬、タオの発情が始まった。
うにゃーん、うにゃーん、くねくね~
夏の出会いから3か月ちょっと。
もお、おとなになっちゃうの~?
仕方のないこととはいえ、あの輝くような子猫時代が去ってしまうのはなんとも寂しい。
お互いの倖せのためにも、不妊手術をせねば。
がしかーし、相変わらず撫でることもかなわぬ状態は依然続いていた。
地元の動物病院に不妊手術の予約を入れながら、捕まえられずキャンセルすること2回。「捕まえなければ」というプレッシャーは予想以上にショローの心身を疲弊させた。タオとしては、「捕まるもんかゲーム」だったろうけど……。
ま、一番氣の毒だったのはヤムヤムかもしれない。
「お、俺っすか? 去勢しちゃったから大したことできないんすけど」
タオちゃんの切ない要請に応じて、やむなくマウント相手を勤めることに。
不妊手術は、抱っこできるようになってからにしよう。
そう肚を決めたら、穏やかな日常が戻った。
タオ、脱走
年が明けてから、タオに2度目の発情がきた。
最初の発情より短期間で済みホッとしていたところで、事件が起きた。
忘れもしない2/7の朝、換氣をしていたデッキのガラス戸をくぐろうとしているわこ(メス・16歳)に氣づいた。
(あわわ~、わこ、やめて~)声に出さずに叫ぶ。
しかし、年のわりに身軽なわこはササ―と外に走り出た。
ま、わこはそのうち帰って来るしょ。
彼女は猫楠にいたときから、何度か外出しては戻っているため、心配はいらない。
次の瞬間、凍り付く。
タオは?
すぐさま室内点検。
オッサンズラブのちぃちぃとトーマはバスケットで抱き合って寝ている。
ヤムヤム、いた、オッケー。
寝室の夏子も問題なし。
やっぱり、タオがいない!
家を買ってからわかったのだが、我が家はフィンランドハウスだった。
寒冷地仕様のため、防寒、遮音性に強い。
ガラス戸はペアガラスで重く、開閉にはかなり力が要る。
しかも一般的な引き戸ではなく、まず把手で戸の上部を開き、次に下部をガッチャンコと浮かせて、右にスライドさせて開ける。換氣には上部のみ開いた状態にして、下向きの二等辺三角形空間で行う。説明が分かりづらくて申し訳ない。ともかく、ワタシが台所仕事をしているちょっとの隙に、好奇心のかたまりでオンナ忍者のようなタオは外に出たのだ。
「タオちゃん、タオ、どこ?」
小さく呼びかける。
絶対、近くにいるはず。
ましてや未だにワタシ以外のニンゲンを見ると姿を消す慎重な性格なのだ。
しかし、問題はどうやって家に戻るか、である。
タオのためにガラス戸を開けっぱなしにすれば、他の猫が出てしまう。
いったんガラス戸を閉めて考える。
まずタオの場所確認だ。
それから家のなかに誘導するには、食べ物で釣るしかないか。
やがて、デッキの収納ダンスと壁の間に固まっているタオを発見。
ああ、よかった、そこにいたんだね。
さ、タオや、おうちに入ろう。
ところがである。
タオ、なにをパニックったか、びゅーーっと飛び出したかと思うと一瞬にしてワタシの視界から消え去ったのである。
オーマイガ、こりゃ、手こづるかも?
あいにく、この予感は当たってしまう。
発情を2度経験していて、触れない猫、しかもかなりすばっしっこい。
タオ、姿を消す
しばらくして、玄関デッキの下にいるタオを発見。
極寒の2月の夕暮れ時、地面に這いつくばって呼びかけるショロー。
しかし、家の中でさえ、すり寄りもしない猫が、うっかり土地勘のない外に出てしまい、いくら心細いとはいえ、
「ごわがったよ、おがぁぢゃーん」
と寄ってくるはずもない。
そこに、わこが地元のアンちゃん猫と連れ立ってやって来ると、タオと同じデッキ下に入り込んだ。
即座に後方に伏せるタオの耳、見開く瞳。
やだよねぇ、これはちょっと嫌な展開だ。
外経験豊富なわこはさっそく地元のボーイフレンドを見つけたらしい。
ある意味、さすがである。
「ちょっとお兄さん、うちのタオちゃんに手出さないでよ!」
この猫はときどきデッキに来ていたっけ。
「わこも寒いんだから、遊びもいい加減にして早く帰っておいでね」
「帰るときは、必ずタオちゃんも連れてきてね」
額にヘッドランプを付けたワタシがいくら粘ったところで、タオは出てこない。
そのうち、わことボーイフレンドはどこかに行ってしまった。
朝からなにも食べていないから、そろそろ空腹のはず。
この際ごはん誘導作戦に切り替えよう。
そう思いたって、ワタシが家に入ってごはんを用意していると、外でギャオギャオ―とやり合う声が聞こえた。
タオちゃん!
さっきの場所に駆け戻ると、すでにタオの姿はなかった。
わこのボーイフレンドに追い立てられたか?
いくら探しても、家のまわりにどの猫も見当たらなかった。
まったく、まったく、まったくもぉ~。
さて、どうしたもんか?
しかし、よりによってなぜ2月?
5年前、ちぃちぃが東京から和歌山の猫楠舎に到着した直後、脱走して22日間の放浪生活を送ったのも2月だった。
あのときは心底消耗した。
正直、捜索より消耗したのが、SNSの書きこみだった。
ヒトは自分に関係ないことに関して実に勝手なこと言う。
たとえそれが善意から出た「心配しています」という言葉であっても、当事者はけっこうへこむ。
無言の「なんで逃がしたんですか、油断してたからじゃないですか」みたいなのもボディブロー的にジワジワ来る。
そんなん言われなくてもわかっとるわい。
だから、このことは365日更新のブログにも一切書かなかった。
戻ってきてないか?
夜中に何度もヘッドランプを付けて、家の周りをまわった。
そんなことをしたところで、タオは逃げてしまうことはわかっていた。
ただ、ワタシが探していることは知っておいてほしい。
近くにいるだろうから、いつも通りの生活を続けることが大事だ。
ときどき、窓を細目に開けて、小さな声で
「タオちゃん、帰ってきて」
と呼びかけた。
チラシを作り、配布先や連絡先すべき機関をリストアップした。
続く
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