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玖磨問わず語り 第13話「ミンさんの贈り物」その1


ミンの女子力

福ちゃんのアキレス腱伸ばし、おもろいわ~
わー、あんなかっこ、とてもできひんわ。
ホンマ、福ちゃんはなんもせんで、みんなをを惹きつける吸引力があるんやねぇ。

わーが今んとこ、福ちゃんと同じなんは煮干し好きちゅうことだけやなぁ。
話聞いとったら、もっと出てくるかいな?

ほいで、Kさんみたいなヒト、あんまりおらんとちゃう?
なんかサムライっぽいやん?
厳格な武士の家から庶民の家、しかも「毎日がお祭り」みたいなとこに来たわけやろ?
福ちゃん、第2のニャン生は180度大転換な感じやね~。

ほんで今夜は氣になるミンさんの話、ドキドキするわ。
うんと~このとき、桜舎は全員オス猫なんよね?
ズズさん、ミンさん、玖磨じぃちゃん、ちぃちぃ、福ちゃんの5匹。
その中でもミンさんはズズさんとのコンビが長くて、かつ桜舎の乙女チックアイドルだったんやろ?
獣医さんがぱっと見でメス猫と思い込んだちゅう話、アレ、笑けるわ。
むっちゃ、女子力あったんやなぁ、ミンさん。

グリーンのペンダントがお似合いのミンちゃん

マムシのちゃん太郎

オラにとってのミンさんは、桜舎で最初に話しかけてくれた猫さん。
今思い返しても、ミンさんのようにどんな猫にも分け隔てなく接する猫さんは案外少ないと思うだすよ。

オラが桜舎に入る前にいた「マムシのちゃん太郎」の話だす。
この猫さん、「他の猫を見たら反射的に襲う」という、狂暴過ぎて厳重隔離の猫さんだったらしいだす。
なんと、あのズズさんも襲われて、7針も縫う大怪我をしたそうだす。
ところがちゃん太郎さん、なぜかミンさんだけは襲わなかったそうだす。

とにかく、桜舎でミンさんはオアシス的存在だったことは間違いないだす。

ミンさんの異変


緑が濃くなった桜の枝を風がサワサワと揺らしている午後。
「ナンリさん、ミンちゃんがなんか変です」
遊びに来ていた元スタッフのぺがさんが言ったんだす。
 
「どーれ? どうした、ミンちゃん?」
「ほら、口の中が、なんかおかしくないですか?」
「あ、ホント、クチャクチャしてるわね。ミンちゃん、氣持ち悪い? うん、わかった。今から動物病院で診てもらおう」
「そしたらワタシ、お留守番してます。夕方になったらズズさんたちのごはん出しときますから……」
「そうしてくれると助かるわ。急いで行ってくる。あら、今日はTセンセのとこ、お休みね。じゃあ、医療センターかしらね。タクシーで行けば早いでしょ」
ナンリさん、素早くミンさんをキャリーケースに入れて出発しただす。

あのころは、行きつけの動物病院がいくつかあったんだすよ。
たぶん、キャットシッティングをしていた関係もあったんだしょうな。
そして、当時のナンリさんはめちゃくちゃ忙しかったんだす。だから、なにかあれば手っ取り早く動物病院へ、そんな感じだした。
でも和歌山に引っ越してからは、動物病院にはめったに行かなくなっただすよ。
今のナンリさんは、
「一番いいのは動物病院に行かずに済むこと」
と常々言ってるだす。
実はナンリさんがこうなった理由のひとつが、今回話すミンさんの話とも関係しているんだすよ。

心配より信頼


さて、話をあの日の桜舎に戻すだすな。 
ミンさんのいない桜舎は、ゆっくりとオレンジ色の太陽が西の空に沈み始めたころ、
「ダイジョブ、ダイジョブ。ミンちゃんはなんともない」
妊婦のぺがさんが、自らを励ますようにそう言ったもんだす。
 
オラ、そのとき、「心配より信頼」という言葉が浮かんだだす。
コレは、ナンリさんが毎朝唱えている31訓の中の言葉。
 
「心配はなんの役にも立たません。なのに、なんで日本人はみんな心配が好きなんでしょうねぇ?」
ナンリさんはセミナーでよくこの話をするだす。

「ワタシの母は『ミョウコウ』というんですが、このヒトが「心配症」という病氣でして、年中心配ばかりしている。あるとき、ワタシが意を決して『ミョウコウさん、母親から見て、私ってそんなに心配? 正直言って、娘としては心配されるより信頼されたいな』と言ったら、母は『ウッ』と絶句したんですよ。この瞬間、私は長年心の中に溜まっていた鬱憤が晴れましたね(笑)。
母親だからと言って、心配を愛情のように振りかざすのは止めてほしい。
心配の大半は、まだ起こっていないことなんです。起こっていないことをあれこれ妄想を膨らませて悩む。ひとりで悩んでいるだけでなく、それをワタシに言う必要あります? ワタシはなにも心配していないのに。完全に余計なお世話ですよ。こういう介入が相手の「生きる力」を削ぎかねないということを、長年かけていろんな本から學びました。
その点、猫は素晴らしいです。心配なんかしない。
ただただ起こることを淡々として受け入れる。
ぜひ、この極意を母にも習得してほしいんですが……。
猫と暮らすヒトにも、こうした心配を手放して、もっと信頼する方に力を注いでほしいですね」

今後のゆくえ

やがて、窓が夕日で赤く染まるころ、げっそりした顔のナンリさんが帰ってきただす。
キャリーケースから出たミンさんもぐったりしてる様子だした。
 
「どうでした?」
「うん、血液検査したら、腎機能がもう末期状態だって」
「……」
「その後、いろんな検査をされたの。で、結局、毎日点滴に通うようにって言われた。帰りのタクシーの中で、ワタシ、自分に腹が立って、悔しくて仕方なかった……」
「腹が立った?」
「だって、結局点滴なら、なぜ『これ以上の検査はいりません』って断れなかったのかって、ことよ。人の出入りも多いざわざわした場所で長時間待たされて、ミンちゃんにホント、かわいそうなことしちゃったわ」
「そうでしたか……」
「ミンちゃんは21歳よ。腎機能が低下してて当たり前じゃないの。老化と病氣をいっしょにされたくないわ。でもね、病院に連れて行った張本人はワタシなのよ、まったく情けないったらありゃしない」
 

ずずさんといっしょのミンさん(左)



「あ、怒ってる場合じゃなかった、ミンちゃん、ごめん。ぺがも帰って大丈夫、遅くまでありがとね」
 
その晩、ナンリさんはなんとか氣持ちを切り替えようとしていただす。

「ミンちゃん、相談なんだけど、明日からの通院点滴、どうしようか?」
ミンさんは虚ろな目をしたまま、応えなかっただす。

続く



 


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