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今日の夏子さん 2023.10.16.



夏子の日曜日

ウトウトの夜が明けて、珍しく頭が痛い。
夏子は寝床に横たわっている。
かすかな呼吸、ときおり顔を上げてまた突っ伏す。

予定をキャンセルして、夏子のそばにいる。
残された時間は限られているのだ。
かといって、息をつめてそばにいられたら、夏子もしんどいだろう。
ワタシが夏子なら「放っておいて」と言う。
なので、簡単な作業をすることにした。
スーパーねこ友の紐の配色、四半世紀近く編み続けている猫おもちゃ。
夏子もワタシのもとに来て11年間、この作業を見ていた。

スーパーねこ友の仕込み

ちょっと前から夏子の口から粘液がこぼれ、独特の匂いを放つ。
無理やりふき取るのは嫌がるので、シーツをまめに交換する。
手足についた粘液の汚れはコームで丁寧にすきとる。
もはや水も自力で飲めなくなったというのに、被毛はツヤツヤ、なめらかな手触りは若いときに戻ったかのよう。
「なっちゃん、きれいになって旅立つんだね」

15:50

午後、夏子のそばで本を読みながら、
これから読書もひとりなのか、と考えたら、心臓がキュッと硬くなった。

寝そべって、夏子の顔を見る。
瞳孔が開き、ほとんど黒目になって、ヌイグルミの目のようだ。
もう何も見えていないだろう。
ひんやりした鼻筋を撫でる。
とがった耳をハムハムする。
まっすぐなしっぽの感触を味わう。
きれいななちゅこ、苦しまずにいてくれてありがとね。

台所で洗い物をしていると、短く夏子の声。
ワタシと入れ違いにヤムヤムが寝室から飛び出してきた。
また、なっちゃんに怒られたの?

夏子のからだを一目見て、今逝ったことを悟る。
あの声はたぶん「行ってきます」のサイン。

どうやら夏子の旅立ちを、ヤムヤムが見届けてくれたようだ。
ヤムヤムは玖磨に仕込まれた看取り猫。

呼吸は止まっていたが、からだはまだピクピクとけいれんをする。
筋肉の動きと分かっていても、もしや生き返りはしないか、と考えてしまう。
しかし、からだはみるみる硬直を始めていた。

なっちゃん、いってらっしゃい。
もとの「チャパ」ちゃんになって、Aさんのところへ。

最後の晩

頭の芯がぼんやりしていたが、足は海に向かっていた。
家の中にいるより、外の風に吹かれたい。

海では焚火をする人たちがいた。

夕陽を眺めながら、ただボーっとしていた。
終った……。
考える時間はこれからいくらでもある。
だから今は、ただなにも考えずにいよう。

昨夜は夏子のなきがらを枕元において寝た。
がらんとした寝室だなぁ……。

深夜、なっちゃんと星空を見ておいてよかった、とポツンとそんなことを思った。

なっちゃん、雲に乗る

昨日の夕方、海で見た雲がピンク色でとても愛らしかった。
なっちゃんはあの雲に乗ったかも。
そうだ、そうゆうことにしよう。
なっちゃん、雲に乗る。
糸島では雲がとても楽しそうに見える。
こちらに来てから、雲ばかり眺めている。
「綿あめのようななっちゃん」という表現は雲につながる予兆だったのかもしれない。

すーいすーい雲さん、なっちゃんを乗せてどこへ行く?

バトンリレー

ヤムヤムが玖磨ちゃんからバトンを引き継いだように、タオもなっちゃんから何かを受け取ったように思う。
それがなにかは、まだ分からないけれど。

夏子からタオへ
肉体を離れた夏子のたましいはお空をプカリプカリ

小ミカンの樹木葬

最近、家にミカンの木が欲しいと思うようになっていた。
ちょうどホームセンターで「小ミカン」の苗を売っていたので、買っておいた。

なっちゃんミカンを楽しみに

「なっちゃんはミカン色」これも数日前に書き綴っていた。
なっちゃん、小ミカン樹木葬はいかが?
ワタシの庭で、美味しいミカンに育ってくだされよ。
毎日眺めている庭、毎日手入れをする庭、これからは夏子といっしょだわ。

なっちゃんは「生きる勇氣、死ぬ元氣」のお手本をワタシに見せてくれた。
こうして死んでいけばいいのよ。
はい、忘れずにいます。

今日の夏子さんはステージが変わっただけである。
死は終わりではなく、むしろ新しい対話の始まりに過ぎない。
これからも、これまで以上になっちゃんと語り合い続ける。

なので、続く。

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