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「迷子のタオや、帰っておいで」ショローと子猫 その4

わこ帰還

タオがいなくなって丸1日が過ぎた。
空腹で帰ってくることを期待して、いなくなった晩はあえてごはんを外に用意しなかった。
健康体なので食べなくても、水さえあれば1週間くらいは大丈夫なはず。
タオが「家に帰ろう、帰りたい」という氣になれば、それでいい。
それから先のことは、そうなってから考える。
こんなとき、いくら計画を立てたところで無意味なことは、ちぃちぃのときに学習している。

夕べはどこで過ごしたのか?
お腹がすいているだろうに、どこでどうしているのだろう?
家にいる猫たちのごはんを用意しながら考える。
いつもなら、足元でニィーニィー言ってるアイツがいない。
妙な感じだった。


ひとまずやることは、庭をちょろちょろ行き来しているわこを家に入れてしまうことだ。
いくらワイルドでも、今や16歳のおばぁにゃん。
寒さが身に滲みるお年頃。
だが、戻りたくても戻れないのが、この家の構造。
わこが近くに来たとき、サッと戸を開ければいいのだが、それができない。
他の猫が外に出るという2次災害を防ぎつつ、わこを家の中に入れるには?
あ、あれが使えるかも?
ピンと閃き、ワタシは急ぎ、それを用意した。
「みなさーん、ご協力お願いしまーす。わことタオが帰って来れるよう窓を開けるので、みなさん、こちらにお入りください」
かつて玖磨(2021年12月19歳老衰のよる自然死)ちゃんハウスだったソフトケージの出番だ。
ちぃちぃ、トーマ、ヤムヤムは嬉々として入ると、中でワキワキな様子。
いいよ、いいよ、みんな、ご機嫌でいておくれ。

案外、新しい環境が氣に入った様子のお三方

ちなみに寝室の夏子は、わことタオがいなくなったことも知らない。
たとえ知ったとしても「関係ないわ」と言うだろう。
何事にも動じない孤高のオンナ、ぶれないオンナ、カッコいいではないか。

ご近所にチラシを配って帰宅すると、わこが玄関デッキ下にいた。
「わこ、おなかすいてるでしょ?」
ポケットに入れていたドライフードを手のひらに乗せて差し出すと、そろりそろりとやってきた。
長毛のコートに枯草が絡まっている。
これじゃ、美貌が台無しじゃん。
間髪入れずむんずとわこの首根っこを押さえる。
反射的に抵抗するわこ。
しかし、ワタシは、わこの四肢をがっちりホールドしたまま家の中に。
よっしゃ、わこ帰還!

2日めの昼前帰還、直後のわこ

「年下は面倒くさくて。うちでゆっくりしてるほうがいいわ」
ええ、ええ、今後はずっとそうしてくだはいよ。
わこが戻った段階で、場所をとるソートケージは撤収した。
どう考えても、タオが自ら家に戻るとは思えなかったからだ。

迷い猫のチラシ配り

わこが戻ったので、新しいチラシを作った。
今度はタオ専用チラシである。
ワタシが校長を務める『猫の學校』セミナーの「脱走猫の探し方」編では、
チラシはポスティングではなく、ハンディングの方が効果がある、
とお伝えする。
しかし、直接手渡ししようにも、日中在宅するヒトは極めて少ないのだった。やむなくポストに投函する。「どうぞ目に留めてください」と祈りを込めつつ……。

家の前や最寄り駅の改札でも、
「子猫が行方不明です、ご協力お願いします」
と言うと、たいていの人が足を止めて、チラシを受け取ってくれた。
通学途中の小学生が一番多かったかもしれない。
実は低学年の子は迷い猫探しに向いている。視線が低いため、猫が隠れそうな軒下や室外機の下などに目が行きやすいからだ。
「逃げちゃうと思うから、追いかけたりしないで見かけた場所を教えてね」
興味を持ってくれた子にはそう頼んだ。
「あ、これ、うちのポストに入ってた~」
「ありがと、見かけたら教えてね。よろしくお願いしまーす」

犬の散歩のみなさんも協力的だった。
「まだ、見つからないの? 心配ねぇ」
「注意して見るようにしてます」
そう言ってもらえるだけで、心底ありがたいと思った。

交番、コミュニティセンター、白山神社、美容室、コンビニ、パン屋、糸島豚専門店、Café、駅の掲示板など思いつくところにチラシを置いたり、貼ってもらった。
それから先は、ただひたすら毎日家のまわりを捜し歩いた。

とにかく、遠くへは行っていないはず。
家の様子を窺っている可能性が高いので、いつも通りのルーティンで過ごすことを心がける。
いつも通りに起きて、いつもごはんの時間には
「タオちゃん、ごはーーん」
と言う。
大切なのは、悲壮感を出さないことだ。

高いところもヘッチャラなタオ


発情期に入っているので、本能によって出奔している可能性もある。 
母が家出娘の身を案じる氣持ちとは、こんなものだろうか?

近所には外出自由の家猫も多い。
彼らは不妊手術はしていても、テリトリーには敏感だろうし。
不妊していない野良猫だっている。
散歩中に猫に遭遇する喜びだったのが、急に一種の恐怖に変わる。

未去勢ざます。


さいわいなことに、いなくなってからの数日間は暖かかった。
とはいえ外でこころ細いことだろうに。
と考えると、なんとも可哀想になる。
タオちゃん、早く帰っておいで。

タオとショローの関係性


チラシを配って、しばらくはなんの反応もなかった。
用心深いタオの性格からして、そう簡単には姿を見せないだろう。
だから、反応がなくて当然だった。
ただ、ジブンのなかでは様々な思いが交錯した。

タオが家を出た5日後の2/12が出会いから半年となる日だった。
半年を前に、こうした事態になったわけはなんだ?
タオがワタシを試してる?
ホントの家族になるための試練?

ワタシはタオを家に入れた時点で、
「この子がワタシの生涯最後の猫になるかもしれない」
と思った。
しかし、タオからしたら、
「アタシにフニンシュジュツとか言ってるこのヒト、ホントにシンジていいの?」
と思っているかもしれない。
お互いの思惑と、両者で築いていかなければならない関係性。
であれば、それに相応することが起こって当然なのだ。

必ずタオは帰ってくる。
根拠のない思い込みはあったが、それは期待であって確信ではなかった。

この存在がないと、塩味が足りない漬物のよう。


日に日に、不妊手術をしていないのが氣がかりとなった。
まさか、孕んで帰ってくるとか?
子猫引き連れてくるとか?
そのときは子猫もひっくるめて引き受けよう。

いや、いや、ヒトだけでなく、よその猫にも警戒心が強い子だから、それはない。
うんにゃ、発情モードになったら、分からんぞ、ムムム~。
頭のなかで、さまざまな妄想が渦巻いていた。

続く

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