読書ノート:マルティネス+シェッフル『物語の森へ』法政大学出版、2006年

千野帽子さんの『人はなぜ物語を求めるのか』で紹介されていた本書を読みました。著者はドイツの大学の教授、邦訳はドイツ文学の教授により「物語研究へのきわめてよい入門書」と紹介されています。

大きくは、第二部の「<いかに>提示」と第三部の「物語の<何>筋と物語られた世界」、言い換えると物語の「HOW」と「WHAT」から構成されています。

第二部はわたしには難解で、第三部から印象に残ったところを読書ノートとして引用します。

… ヨーロッパの自伝のモデルは、物語られた出来事によって、いかに、誰が、ある者になったかを説明すること、つまりある際立った個人を、一定の生の産物として叙述することを目指している。年代記的な連続性、頂点と転換点がその際、構成的な要素としての役割を果たしている。…

『物語の森へ』p172

1960年代のアメリカの社会学者のラボフとワレツキーの論文『物語分析』は、物語の最小構造を6つの要素としています。

1. 要約 abstract
2. 定位 orientation
3. 紛糾を惹き起こす行動(葛藤) complicating action
4. 評価 evaluation
5. 結果ないし解決 result or resolution
6. 結末 coda

『物語の森へ』p214

しかし実際の語りでは、6つの最小構造は複雑な全体に埋め込まれていて、純粋な形では見いだせない、そうです。わたしは最初のふたつの重要性が記憶に残りました。

まず語り手はお話全体の要約を述べるが、それはすでに全体の中心的な話題(Pointe)を暗示し、いずれにせよ「何が問題になるか」という問いに答える(要約)。ついで、時間、場所、筋に加わる人物についての定位的な指示(いつ、どこで、誰が)(定位)。

『物語の森へ』p214

また、歴史と物語との関連については、1973年のホワイト著『メタ・ヒストリー』を引用して、次のように説明しています。

歴史家は、年代記の中の個々の出来事に、それぞれ別の物語要素としての機能を割当、識別できる始まりと中間部と結末をもつ理解可能なプロセスとみなされる一連の出来事全体の形式的首尾一貫性を明らかにすることによって、時間順の出来着とを重要性の序列へ置換える。

『物語の森へ』p227

記録を物語へと変形していくノンフィクションの考え方があります。しかし、この年代記の形式は、「なぜこれらのことがらがこのように起こって」「最後にはどうなったか」という問いには答えているものの、物語の「意味」、「その全体はどういう意味か」に答えるものではない、としています。

形式的・構造的によく作られたお話も、「それが、どうしたの」という問いに対する回答が示されない限り、実際的には欠陥のあるものでしかない。お話の意味は、その筋の構造からは直接的に引き出すことができない。

『物語の森へ』p228

物語論的に「お話の意味」は、ロマンス、悲劇、喜劇、風刺などの「物語の種類」ないし「ジャンル」、典型的な「筋の図式」によって認識されると解説しています。ストーリーライティング的には、その物語のテーマであったり、動機(なぜなにを誰に伝えたいのか)だと意識しました。

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