自動車が速度を検知する仕組み

自動車には昔から速度計がついていて、若干の誤差はあるものの、そこそこの精度で速度を表示してくれる。機械式、電気式、電子式と変遷したが、速度計は重要なので技術要件がJIS規格の規定されている。現在標準的なのは車輪の回転数を検知して速度に変換するものである。速度計に誤差が発生するのは、ゴムタイヤが摩耗するとタイヤの外径が変化するためである。そのため、タイヤが摩耗しても速度計が一定精度を確保できるよう、タイヤの外径にも規定があり、それによって装着可能なタイヤやホイールのサイズが制約される。それに反すると車検に通らない。

しかし、駆動軸が空転すれば車輪の回転数が実際の速度よりも高くなるので速度が過大に表示されるし、逆にブレーキがロックしたら車輪の回転数が0になるので、それをそのまま速度に変換して0km/hとしたらABSが機能しない。しかも最近の車の自動制御においては正確な車速を把握することがすべての起点となるので、車速を把握する仕組みの重要性が増している。そのため、TVキャンセラー等によって車速信号をごまかすとエラーが出てシステムがおかしくなって不具合が出る車もあるようである。

最も単純なのは車輪の回転数の急激な増減自体を異常として検知するものである。過去の速度データから、車の速度としてあり得る範囲から外れた回転数が検知されたら、それはその回転数が異常である可能性が高い。回転数が異常に増大したら空転だろうから、エンジンのトルクを絞って空転を収めれば良い。逆に回転数が急に0になったらブレーキがロックしているだろうから、一旦ブレーキを緩めて滑走を収めればよい。ABSが間欠的にブレーキをかけたり解除したりするのはおそらくそのためではないか(ABSが作動するときは制動力の確保も必要なので、強いブレーキと解除との繰り返しでカカカカカカカカとなる)。車輪の回転数が正常な範囲に戻ったら、その車輪の回転数をもとに算出された速度もほぼ正しいだろう。いずれもシンプルなフィードバック制御が可能である。しかし、過去の速度データからのトレンドをもとにする限り、正常な範囲から逸脱した時間が長ければ長いほど本来あるべき速度を推定する精度が下がる。

できれば複数の情報源を比較して異常値のみを排除できる仕組みがあれば、正常であろうデータも保持できる。カーナビはGPSを積んでいるので、GPS速度計と併用することである程度の精度を確保できる。車載の速度計もGPS速度計も一長一短あるので、GPSだけというわけにはいかない。車載速度計の長所はリアルタイムの情報を取れること、短所は時折精度が落ちることである。一方、GPS速度計の長所は車載速度計よりも精度が高いこと、短所は座標の変位によって速度を計算する方式なので若干のタイムラグがあることと、トンネル内のようにGPS衛星の信号をつかめない場所では機能しないことである。カーナビはトンネル内でも位置を把握するため、GPS情報をもとに位置と速度と道路の向きから位置情報を推定している。速度を把握する際にも、GPS速度と車輪の速度とを常時監視し、車輪の速度がGPS速度から一定範囲内から逸脱したら空転や滑走とみなしてGPS速度から推測される速度に戻すといったこともすでにやっているかもしれない。できれば4輪すべてに速度センサーがついていれば4輪ロックするとき以外は速度を把握しやすそうだが、コストが高くなりそうである。

鉄道車両は自動車以上に空転・滑走が発生しやすいため、空転や滑走に影響されない速度計測方法を追求しており、たとえば空転しやすい駆動軸ではなくモーターのついていない車軸に速度センサーをつけたりしている。今ではドップラー・レーダーで速度を計測しているようである。北海道のパトカーも速度取締用ドップラーレーダーを搭載しており、前方の車だけでなく、対向車の速度を取り締まることもできる。

いまどきの自動車は追従型クルーズコントロールのために前方に距離計測用のレーダーを搭載しているので、ドップラー・レーダーで速度を計測している車もあるかもしれないが、レーダーは雪が付着すると機能しないので、他の計測手段と併用して多重化する方向に行くのではないだろうか。多重化すると情報処理が複雑になるので、車載コンピューターのソフトウェアに高度な処理をさせる必要が出てくる。しかしそれでも、自動運転に近づこうとすればおのずからソフトウェアの処理が高度になっていくので、その一環として速度計測の精度を上げていくのだろうか。

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