男鹿線の蓄電池電車に乗ってみた

男鹿線に蓄電池電車が入ったので乗りに行った。車両はJR九州の蓄電池電車のOEMで50Hz仕様に変更になった他、内外装がJR東日本流にアレンジされている。まだ1編成2両しかないためラッシュ時を避ける列車に充当され、秋田駅から男鹿駅まで1日に3往復している。

蓄電池電車は電化区間で充電して非電化区間では蓄電池からの放電によって走る。それでも烏山線の蓄電池電車に比べて制御はシンプルで、電化区間非電化区間ともに力行時、ノッチオフ時、回生制動時の3種類しかない。

まず電化区間での力行時には架線から集電してモーターと空調・照明等のサービス機器に電気を供給すると同時に蓄電池に充電する。ノッチオフ時には架線から集電してサービス機器に電源を供給するだけで、蓄電池には充電しない。回生制動時にはモーターで発電された電力がサービス機器と蓄電池に送られて、余った分は架線に戻される。停止直前の回生制動の効かないときはノッチオフ時に準じる。

非電化区間での力行時には蓄電池からモーターとサービス機器に電気が供給され、ノッチオフ時には蓄電池からサービス機器にのみ電気が供給される。回生制動時にはモーターで発電された電気がサービス機器と蓄電池に供給される。回生ブレーキによって蓄電池から放電された電気の何割かは回収される。

烏山線の蓄電池電車は電化区間区間ではもっと複雑な制御をしていて、基本的には架線からモーターとサービス機器と蓄電池に電気が供給されるのだが、ノッチオフ時に蓄電池からの放電によってサービス機器の電源をまなかうこともある。満充電になると回生ブレーキによって電力を回収できないからだろうか。

烏山線の蓄電池電車は直流仕様で内部電圧が低いのかいろいろ制約があるようだが、男鹿線や九州の蓄電池電車は交流仕様で内部電圧が高いおかげで、比較的シンプルで性能にも余裕がある。電化区間で電車と同じように走るのはむろんのこと、非電化区間でも電車と同じ性能で走れるので気動車よりも加速性能が良い。ディーゼルエンジンの不快な騒音と振動がないので車内は静かで快適である。

また、701系電車と異なり扉の前にステップがないので乗降が楽である。701系の頃は床下に交流機器を格納するために床を高くせざるを得なかったが、今では機器類が小型化されているし、通常の電車なら架線電圧が高すぎて回生制動が効かないようなときでも回生電力を蓄電池に充電するので回生失効のおそれがないことから、発電制動用の抵抗器を搭載する必要がない(もちろん満充電時には蓄電池で吸収できないが、これは充放電制御である程度は調整できる)。

男鹿駅には充電設備があり、電力会社から三相高圧6.6kVで受電して交流電化区間の架線と同様に単相20kVに昇圧して架線に電力を供給している。それだけでなく男鹿駅構内には風力発電機もあり、この電力を蓄電池に充電することで蓄電池電車に充電するための電力を賄っている。秋田県の日本海沿岸は風況が良く、特に冬には風が強いため、風力発電に適している。大型風車だと近隣から反対されるおそれがあるが、駅構内に小型風車を配置しているだけなので周囲への影響は限られている。風況が良いのも鉄道にとっては困りもので、強風時には羽越線や五能線が運転を見合わせてダイヤが乱れるのだが、幸い男鹿線沿線は海岸から離れているため強風の影響を受けにくい。JR東日本では鉄道向けの電源として再生可能エネルギーに投資しているところで、風力発電による電力だって普通に電化区間向けに供給してもよいのだが、男鹿駅の風力発電設備は多分にデモンストレーションの側面もあるのだろう。風力発電機は大きければ大きいほど効率がよいため、小型風車で発電できる電力量は限られている。

烏山線の蓄電池電車が烏山駅で折り返す際には1時間近く折り返し時間を取って充電しているが、男鹿駅では交流電化で架線電圧が高いためか折り返し時間は30分であり、気動車と同じくらいの折り返し時間で済んでいる。男鹿線でトンネルがあるのは脇本折立間の1カ所だけなので、追分駅から船越駅くらいまで架線を引っ張ってくれば蓄電池で走行する距離はもっと短くなり、男鹿駅で充電する必要はなくなるのだが、費用対効果を検討した上で現在の方式になったのだろう。

男鹿駅に蓄電池電車用の充電設備が設置されたのに合わせて、新しい駅舎が建設された。かつて男鹿駅から先の船川港駅まで貨物線があった名残で、男鹿駅の旧駅舎はホームの秋田寄りにあったのだが、貨物線が廃止されて線路が撤去された際に船川港寄りが再開発され、新駅舎とロータリーと道の駅が設置された。

2020年度から蓄電池電車が増備され、男鹿線の全列車が蓄電池電車での運行となる予定である。そうなるとラッシュ時にも充当されるので2両編成では輸送力が足りず、2編成連結して4両編成で走らせることもあるだろう。その際に編成間を貫通させるための貫通扉に幌が必要になるが、現在の編成は2両単独運行なのでまだ幌がついていない。蓄電池電車が増備されるときには現在の編成にも幌が取り付けられることだろう。

羽越線の村上酒田間にも交流ベースの蓄電池電車を走らせることができ、蓄電池で走行する必要があるのは真島から村上までの1駅間しかない(直流電化区間と交流電化区間との間のデッドセクションがある場所である)。しかし実際に走っているのは気動車であり、それが電気式気動車に置き換えられているところである。これはJRの組織の都合でしかない。村上酒田間は新潟支社管内で、気動車の車両基地は新津にあり電車の車両基地は新潟にあることから、もし蓄電池電車を走らせるとしたら直流ベースとせざるを得ないが、村上から酒田までの距離は蓄電池電車の航続距離よりも長い。かといって交流ベースの蓄電池電車だと今度は新潟まで蓄電池で走行しなければならず、これも航続距離が足りない。JR西日本の521系のような2両編成の交直流電車なら羽越線の普通列車に充当しても
輸送力過剰にならないが、羽越線だけのために交直流電車を入れるよりも磐越線や米坂線の気動車と同一車種にして新津の気動車でまかなう方が運用しやすいのだろう。羽越線の新津新発田間の直流電化区間にも気動車が充当されているのも車両運用上の都合である。

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