オレンジマーマレードのトースト

パンとバターとオレンジマーマレードだけでシンプルなのに奥が深い。オレンジマーマレードには柑橘類特有の甘みと酸味とそして苦味があり、それに有塩バターの塩分と油と乳製品のコクとが合わさり、立体的な味になる。

シンプルな料理はごまかしが効かないので、食材選びがすべて。また、料理はバランスなので、どの程度の力強さにするかに応じて食材の力強さを統一する。濃い味にするなら味の濃い食材で統一し、薄い味にするなら味の薄い食材で統一する。せっかくおいしいバターがおいしいパンが手に入ったのにオレンジマーマレードが力強くなければもったいないし、同様にパンもオレンジマーマレードも味が薄いのにバターだけ味が濃いのもバランスが悪い。

オレンジマーマレードにどの程度の苦味を求めるかは各人の好み次第。輸入品でもあまり苦くないオレンジ色のと、ものすごく苦くてくすんだ色のがある。苦いタイプのは日本人にはとっつきにくいかもしれない。しかし程度の差こそあれ、苦くなければオレンジではない。国産品は甘みが重視され苦味が弱い傾向がある。そのようなオレンジマーマレードを使うなら、パンやバターも同じトーンで統一する。

味を薄めにするなら、トーストは日本の袋入りのパンによくあるように厚くてふわふわしているのでもよいが、濃い味で統一するなら、パンは硬めかつ薄めの方がバランスが取れる。味の濃い食材は少量でも満足できるので、量も少なめでよい。

トースト全般にいえることだが、あまり大きいと食べている途中で冷めてしまうので、短時間で食べ切れる大きさにする。1枚で大きすぎるなら半分に切る。せっかく焼き立てのパンでも冷たいバターや冷たいオレンジマーマレードを乗せたらすぐに冷めてしまうので、使う分だけ予め常温にしておくのがよいが、これは意外と手間がかかる。たかがトーストされどトーストである。

そもそもジャムというものは新鮮な果物が手に入らない北方の地域で果物を保存するためのもので、基本的にはしみったれたものである。新鮮な果物が手に入るなら、わざわざジャムなんて塗る必要がない。同様に、オレンジマーマレードのトーストにオレンジジュースを組み合わせるのは冗長である。ホテルの朝食ではジュースが出ることが多いので、あまりジャムの出番がない。

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