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映画「海辺のエトランゼ」 感想②

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次は駿についての感想を書いていきます。

映画での駿についてはクズ味が増していると思いました(笑)
原作では実央に対してヘタレ、決めきれない、躊躇するイメージが強かったのですが映画では更に顕著で実央に対して「僕ちゃんモテモテー」と皮肉るシーンなどもありました。
それだけに映画での最初の印象は原作より結構悪かったのですがその分、駿の過去のトラウマや葛藤が原作以上に深く表現されていました。
その辺りが、映画のエトランゼは駿の感情面に重きを置いてるのかな?と感じる部分でもありました。
実央と本島に向かう船の中で「その調子で彼女でも作ればいいのに」と言ったシーン。原作とは少しセリフ回しが違うのですがニュアンスは同じで実央を怒らせてしまいました。
原作での駿の実央に対する態度の取り方は臆病さや躊躇いが凄く目立っていた印象でしたが映画ではそれ以上に実央が好きなのに何処か卑屈さを感じました。
でも本島での実央からの電話で実央の想いを聞かされた駿は目を覚ましたというか何か一歩踏み出した感じで雨の中、実央の元へと駆け出しました。
この時、駿の脳裏に高校時代のトラウマがフラッシュバックしていて走っている最中に苦悶の表情を見せます。
この表現の仕方が駿の実央に対する想いへの枷や壁を感じさせてくれましたしそれでも頑張って走る姿が実央への想いが勝っている事を印象付ける様でとても良かったです。
実央の元へ着いた駿、実央の想いを聞いて何か吹っ切れた様に彼の手を取ってホテルに向かいました。
手を繋いでいた二人を見てひそひそと話す女性3人に気付く実央、そんな事お構いなく実央を部屋へと連れて行く駿。
部屋に入った途端駿は実央に強引にキスをしてから「…なんで帰ってきたんだよ」「俺なんかじゃなくて普通の女の子好きになった方が幸せだったのに」「そう思っちゃうんだよおまえ見てると」といって実央を抱きしめました。
このシーンは「海辺のエトランゼ」でも屈指のシーンだと思いますがやはり駿の想いの全てを感じさせてくれる名シーンだと思いました。
映像ならではの「見て」伝わって来る物が凄くあって、ピアノの音色も相俟ってとても素晴らしいシーンだと思いました。

映画での駿のシーンで最も印象に残ったのはやはり最後、実央と結ばれるシーンです。
実央と結ばれる時に「いつか 好きになった相手と 抱き合えたら」「そんなこと 絶対叶わないと 思ってた」という駿に想いは文句なしにベスト1です。
この時、高校時代の苦しんでいる自分の姿と実央の姿が駿の脳裏を過るのですがこの演出がもう滅茶苦茶良かったと思います。
台詞の間隔とピアノの音色、そして脳裏を過るシーンがとても素晴らしくて映像の良さを最大限に感じるシーンでした。
実央と抱き合い駿が流した涙も物凄く深く目に焼き付いています。この短いシーンと想いの中に駿の全てを感じると共に駿自身が過去の自分との決別、実央と新しい道を歩み始めるスタートラインに立った様に感じました。
実央の存在がどれだけ駿の心を救ったか分かりません。実際は実央も駿の存在に心から救われているのですが「海辺のエトランゼ」ではやはり駿自身が実央を見つけ出会い触れ合って救われたと思います。
事後、「俺なんにもしてないな」「俺はお前が思ってるよりもずっと お前のこと好きなんだよ」と言った駿。
「俺だってなんかしてやりたい」と言った駿の想いが凄く切なかったですしその言葉に実央への想いが溢れていてとても良かったです。
そんな駿に実央は「大丈夫だよ、男が好きでもおかしくないよ」と言うんですがその時の実央の表情がまたとても印象的でした。
そしてその言葉が駿をどれだけ救っているのかな、と観ていて思いました。
この一連のシーンは原作、ドラマCDでも素晴らしく感じた部分ですが映像という手法で観るとまた違った深みや味わいを感じました。
本当にこのシーンだけでも観て本当に良かった!と思えるシーンでした。

そして実央の後押しもあって実家に帰る決心をした駿。
海辺のベンチでの実央とのやり取りで再度実央が駿に「何見てんの 気持ち悪いんだけど」と最初の頃と同じ様に駿に言います。
直ぐに「なんてね」って実央は言うのですが実央はどういう思いでこの台詞を駿に言ったのかな?色々考えますが答えは誰にも分かりません(笑)
駿は実央に対して「一緒に来てよ」と言うのですがこの辺りの描写は原作とは少し違っていました。
映画ならではの理由があったのですが原作では実央は「いいよ 俺も一緒にいたい」とさらりと言うのですが映画では「一緒がいい、ひとりは嫌だ」と言って泣き出します。
そして原作と同じく実央は駿の手を引いて海に入ってはしゃぐのですが「駿 ありがとう うれしい!」と言いますがこの時の表情は何とも言えないくらい良かったです。
映画ではこの時の二人は白いシャツを着ています。舞台挨拶での大橋監督のお話によればこの衣装にしたのはこの海辺のベンチでのやり取りは二人の結婚式をイメージしたそうです。
作中の至る所に監督の作品へ対する愛を感じますし、この最後の最後での趣向も本当に素晴らしくて言葉がありませんでした。

映画の「橋本駿」と言う人物は原作を上回るダメ男っぷりでしたがそれが余計に人間臭さを感じて駿と言う人物に何だかとても共感するものを感じました。
実央を孤独から救った駿、実央に救われた駿。続く「春風のエトランゼ」でもそれは変わらず実央に様々なものを与える駿と実央といる事で幸せを感じる駿が見れます。
何度も言いますが本当に「春風のエトランゼ」も映像化して欲しいです…(血涙)


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「特別じゃない、ただ恋をしている。」

本当にそう言う作品です。男性が男性を好きになるいわゆるセンシティブなお話ではあるのですがこの作品を見ていると恋するのにそんな事は関係ないと思わせてくれる本当に純粋で切なくて何処か近く感じる物語だと思いました。
映画を鑑賞するにあたって原作等の事前情報があるか無いかで確かに見方が違うかもしれません。
原作を知った上で鑑賞すると素晴らしく再現された映像の世界に心満たされますがもし事前情報がなかったとしてもとても綺麗で素晴らしいお話だと思いますし映画を観た後は原作を追いたくなると思います。
映像美や色彩、美味しそうな料理が特に魅力ポイントとして上げられる作品で実際僕もそう思いますがでも一番魅力的なのは実央と駿が動いて喋ってスクリーンの中で恋をしている姿を観れる事だと思います。


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そして最後に、この映画の主題歌「ゾッコン」
聴いているだけで走り出したくなる様な爽快感とキャッチーでメロウな曲調、飾り気のないストレートな歌詞。
これほど実央と駿にピッタリな曲は無いのではないでしょうか?
「泣いて泣いて泣いて泣き疲れても 落ち着くことないこの感情も あなたがいないと味わえない」と言うフレーズは凄く実央と駿にぴったりだな、と思いますし聴いていると凄く気分が高揚します。
最後はしっとりと静かな曲で終わりそうな所、軽快な曲で締めくくる事によって「先」を感じさせるフィナーレになっています。
それは「春風のエトランゼ」を意識してとの事でした。(舞台挨拶より)
エンドロールも映画の定番の黒では無く、白に紺色の文字にされているのも大橋監督の拘りからとの事。
この心遣いが本当に素晴らしいと思いました。

夏の終わりに途轍もなく素晴らしい映画作品に出会えたと僕は心から思っています。
どうかこの作品がひとりでも多くの方の心に響き、そして残る事を願ってやみません。
そして「春風のエトランゼ」でまた実央と駿に会えたらどれだけ素晴らしい事でしょうか。

実央と駿、そして映画「海辺のエトランゼ」にゾッコンです!

未だ映画を観てない方は是非観て欲しいです!
劇場でしか味わえない臨場感や感動は今しかありません。
観なくて後悔することはあっても観て後悔することは無い作品です。

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