お菓子で打線組んだ

お菓子で打線を組むならば、何をどの順に配置するかを考えた。
友人と集まり、一番打者から順にひとりずつ選出理由を合わせて発表していく形式を取る遊びだ。それぞれの好みやお菓子への解釈など、発想の奔放さへの驚き・深い同意など、非常に楽しい時間を過ごした。
ここで、その際にわたしが考えた打線を考察を合わせて書き出していく。わたしは野球にあまり詳しくないため、参加者の面々にそれぞれ特色やその打順に置かれやすい性質などを説明してもらい、自己解釈の上で決定した。

当チームのコンセプトは「次に繋げる」ことである。

一番打者 〈ハイチュウプレミアム・ヨーグルト味〉森永
知らない者はいない有名どころであり、著名人にもファンは多い。彼のやわらかな食感、ジューシーな風味は独特のセンスを持ち、中毒性があるとすらされる。
人気は高いのだが、歯列矯正・詰め物をしている人や高齢者には敬遠されるという指摘もあった。確かに、チューイングソフトキャンディという性質上、万人に好かれると言い難い位置にいるのは間違いない。
しかし、裏を返せばその突出した性質は強みとなり、替えの利かない唯一無二の存在感から、初手にも関わらず相手にプレッシャーを与えることも可能である。
塁に出ることが仕事とされる一番打者だが、前述した万人受けしない性質ゆえにハズすこともあり、彼の選出はややリスキーではある。しかし、通常のハイチュウではなくプレミアムを採用することにより、長打を狙うことが可能となる。二塁・三塁打を望める存在が初手から出てくるということは、相手へ確実に圧をかけられる。当チームの「次に繋ぐ」というコンセプトが、打線を途切れさせないという意味合いのみではないということを体現していると言えよう。

二番打者 〈紗々〉 ロッテ
数あるチョコレート菓子の中で、打力は中の下と言えよう。
しかし、紗々の持ち味は打力ではなく、パキパキという軽やかな食感の後の溶けるような口溶け、上品な後味に挙げられるような繊細さである。一番打者が塁に出ていれば、正確無比なバントで確実に進塁させることもできる。 また、その身軽さから、自身が出塁する際には圧倒的な脚の速さを魅せてくれる。
安定した対応力を備えており、一番打者であるハイチュウが初手から長打を狙う豪胆さを持っているのは、ひとえに彼が控えているという安心によるものである。
しかし、暑さに弱いという一面もあり、夏場の試合では綿密な体調管理が求められる。よくハーゲンダッツの隣にいる。
また、チームの調整役という面もあるが、全体を見るヨーグレットとは異なり、一対一の相互理解に重きを置いている。故にチームメイトからの彼への信頼は厚く、相談事を持ち込まれることが多い。

三番打者 〈カントリーマアム・ファミリーサイズ〉 不二家
今さら多くを語ることもないだろう。打力があり、高級感のあるチョコレート菓子の筆頭である。
今回はファミリーサイズをチョイスしており、バニラ味とココア味の二種類のフレーバーが楽しめる。力技だけでなく打ち分けなどの繊細さも持ち合わせており、安定感は随一。
彼には四番を任せられる力量は備わっているのだが、年々内容量が減少しており、そのコスパの悪さが足を引く部分は否めない。しかしそれでもハーゲンダッツを妬むようなことはなく、彼なりにひたむきな努力を続けている。

四番打者 〈ハーゲンダッツ・クッキー&クリーム〉
彼はレギュレーション違反ではという声もあったが、アイスクリームは菓子という分類に入るため問題なしとした。
アイスクリームの王者とも言える知名度とクオリティの高さがあり、安定した打率を誇る。打力は強打者の中ではやや劣るが、ハーゲンダッツは走者を確実にホームに返す安定さが評価されている。
また、持久力に乏しいとされる当チームだが、彼はかなりタフであることも強みであり、チームの精神的な支柱となっている。彼自身はカラリとした性格であり、エースであることを鼻にかけたりせずにチームメイトと絆を深めている。
フレーバーとしてクッキー&クリームを挙げたのは実のところ消去法である。バニラ、抹茶などは大衆人気はあるが、味が淡白なため少々くどさを覚える。ストロベリーはやや味が軽く、ホームラン狙いが二塁打になることも多い。クッキー&クリームはバニラとクッキーを用いて味のバリエーションを付けることにより、染み渡る甘さに飽きず至福の時間を過ごせる。
カントリーマアムでコスパの悪さを挙げたが、ハーゲンダッツにおいては価格に見合う味、そして量のバランスが取れており、四番打者として申し分ないであろう。

五番打者 〈キャラメルコーン〉 東ハト
ハーゲンダッツ、カントリーマアムに引けず劣らずの強打者。甘みは強いが、口の中でやわらかく溶け、しつこくない後味が故に気付くと無くなっている悪魔のお菓子。
底に隠されているピーナッツも香ばしく、カントリーマアムから続く甘さを緩和してくれる作用もある。
ハーゲンダッツは安定さが評価されているため、凡退に終わることはほとんどないが、彼は万が一に備えて常に警戒を怠らない。ハーゲンダッツへの信頼が乏しい訳ではなく、信頼しているからこそ彼が打ち損じた際のリスクを考えることができる器を持っているためである。

六番打者 〈ヨーグレット〉 明治製菓
ここからはいわゆる下位打者となるが、手を抜いているわけではない。確実に「次に繋ぐ」ためには、場の状況を判断する洞察力や器用さが求められてくる。それが備わっているのがヨーグレットであり、彼の適度な酸味やタブレットの歯ごたえは、甘さの強い上位陣とは異なる強みを持っている。
対戦相手は層の弱いであろう下位打線、すなわちヨーグレットあたりからは確実に抑えておきたいと考えるのが自然だ。しかしヨーグレットは前述した繊細さを持ち、長打こそ望みにくいものの、情報を残すという点においても七番打者以降へと繋ぐことが可能な打者と言えるだろう。
チームの中でも菓子望が厚いとまでは言わないが、彼を嫌うものは少ない。挨拶を欠かさない、率先して雑務を行うなど菓子性に優れていると評されており、彼をキャプテンに推す声も多い。彼自身は想定外だったのか驚いていたが、最終的には辞退し、副キャプテンの役目を務めている。

七番打者 〈たべっこどうぶつ〉 ギンビス
ヨーグレットと並び圧倒的なコスパの良さを誇る。甘さの中の仄かな塩味や軽い食感が特徴的であり、幼児から高齢者まで幅広い人気がある。ファンサービスも欠かさず、グッズの売れ行きも好調であり、チームのブランドイメージ向上に一役買っている功労者。
下位打線に配置されることからも打撃能力には乏しいものの、そのフットワークの軽さや臨機応変に対処できる判断力に長けており、ヨーグレットとの連携が上手い。
今回は守備については考慮しないと述べたが、ヨーグレットとたべっこどうぶつは守備に長けた選手である。この二菓子は他メンバーと比べて経験豊富であり、全体を見る力を備えていると言えよう。
実際にそういった戦術があるのかはさておき、試合の状況をみて自らで打順を途切れさせるなど、冷静な判断ができる意外性も兼ね備えている。

八番打者 〈ピュレグミ・ライム味〉 カンロ
ピュレグミは投手であり、自身の扱える変化球の多彩さが持ち味である。しかしコントロールには難があるため、相手が振らない場合はフォアボールになることも多々。捕手との連携がハマれば空振り三振のオンパレードとなり、対戦相手にとってその流れを切ることは困難を極める。
一般的に投手は消耗を減らすために九番目の打順に置かれることが多いと聞いたが、当チームでは九番打者から一番打者への繋ぎを強化したいため、この打順となった。
二刀流とはいかず打撃能力に期待は出来ないが、彼の持つ強めの酸味はチームにとって不利な空気を一変させる切り札となり得る。ハイチュウと並んでチームのムードメーカー的存在であり基本的には可愛がられているが、彼らの無邪気な振る舞いが空回りすることもしばしば。

九番打者 〈ライセンス契約終了前のリッツ〉
かつて、リッツはヤマザキ・ナビスコから販売されていた。しっとりとしたクラッカー、そして程よい塩味。お菓子として単体で食べても美味しく、リッツの上にチーズなどを乗せることで軽食にもなり得るなど、幅広い戦略を持っていた。
しかし悲劇は突然に訪れた。リッツは交通事故に遭い、還らぬ菓子となってしまったのだ。チームは彼を喪った悲しみ、そしてぽかりと空いた九番目を見つめることしかできなかった。そんなチームに声をかける菓子がいた。
リッツと瓜二つの顔だが、わずかにあどけなさを残す彼は、リッツの腹違いの弟だった。
彼は欠けた九番目を埋めるべく、努力を重ね、兄の代わりを果たそうと必死だった。
しかし悲しきかな、どうしても埋まらない兄との実力差。そう、モンデリーズから販売されている彼は、クラッカーとしての軽さを強みとしており、かつての兄が持つしっとりとした食感と相反している。彼が求める兄の強さは、どれだけ望もうとも手に入らないものであった。
そんな中、転校生が現れた。転校生はルヴァンと名乗った。チームメイトは全員、ルヴァンにヤマザキ・ナビスコのリッツの面影を重ねずにはいられなかった。
チームに加入したルヴァンは、いとも簡単にモンデリーズのリッツの座、つまり九番打者に選出された。
やはり、自分では兄には追い付けない。そうリッツは改めて事実を突き付けられ、わずかに視界が歪む。試合の中、ベンチから打席に立つルヴァンを見つめる。ピッチャーが振りかぶり、放たれた豪速球は、ルヴァンのヘルメットに直撃した。
ルヴァンは常に目深に帽子を被っていたし、試合中はヘルメットの着用が義務付けられている。チームメイトは彼が脱帽しているところを見たことがなかった。また、彼は寡黙であり、自分のことを詮索されることを好まなかったため、チームメイトも彼の素性を詳しく聞くこともなかった。
そんな彼が、デッドボールを受け、ヘルメットが割れる。
思わずリッツは駆け寄った。彼の、素顔を見た。
「……ごめんな」
事故で死んだはずの、兄が、そこにいた。

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