ぶっ飛ばされたような晩to晩
土曜の夜中、3時ぐらいだったか、家でうだうだしているとコダマさんからインスタのdmが来た。もう寝ようかと思っているところだった。なんだろうかと思って見てみると「ウクライナ行かんかいね??」と書いてあった。
びっくりして一瞬で目が覚めるのを感じた。そう言えばこの前会った時、夏に何度目かのウクライナに行くと言っていた。
一体何のつもりのdmなのか、よくわからなかった。きっと酔っ払っているのだろうと思い、とりあえず返信はせず、寝ることにした。友達にこのことをラインすると、行くのもありじゃねと返ってきた。適当なヤツだ。
どういうことなんだろうか、でも絶対この時間だし、酔っ払っているに違いないと思って布団に潜った。それでも、もし本当に行くとしたらどうする?お金は?借りればいいか。時間は?時間なんてどうにでもなるか、と頭の中でグルグル考えてしまっていた。
朝は10時ぐらいに起きた。バイトが休みだった。昨日のメッセージが夢ではなかったことを確かめて、酔っ払ってたとかじゃないですよね?とどうせ酔っ払っていたのだろうと思いながらも返信をした。一晩寝ても、頭の中は全く変わっていなかった。一気に日常から気持ちがぶっ飛ばされ、もうどこかの海の上ぐらいにはいた。
どうにか平常心を保とうと、あと意味があるかもしれないと思い、本棚にあった"ロシアの歴史を知るための50章"を開いた。だが本を読める感じでもない気がしてきて、なんとなくギターを練習し始めた。ギターはおかしな楽器で、どんな気持ちの時でもとりあえず集中することが出来る。ギターを2時間は弾いていたかも知れない。
コダマさんからの返信は一向に来ない。日曜なので店番をしているのだろう。このまま家でこうしているのも馬鹿らしいので、直接行って聞いてみようと思い始めた。
雨が降っていた。だが夕方にはやむという予報だったので傘を持たずに出た。新宿で中央線に乗り換える。いつ来ても混んでいる。次は高円寺、高円寺、お出口は右側です。はいはい高円寺ね。降りるとまだ雨が降っていた。駅を北口から出て商店街を歩く。
店の前まで着いてみると、誰もいないようで、中国語でおそらく、お待ちください的な意味の言葉が書いてある看板が掛けてあった。出掛けているみたいだ。しばらくその辺で時間を潰して、また戻ってみると、いた。普通の店主のように店番をしているコダマさんが。
歩いてきた勢いのまま店に入って、こんにちはと言うと、「ああびっくりした。変な人が来たかと思った。刺されるんじゃないかと思ったわ」と驚いていた。いやいろいろと驚いたのはこっちだわと思いながらも、どういうつもりなんですか酔っ払ってたんですかと聞いた。
するとコダマさんは「酔っ払ってねえわ、俺はそんな酔っ払ってdmしたりする大人じゃない」と言った。そして「冗談やわ。お金もないでしょ?」とのことだった。なんだ冗談か。
14万しかありませんと言うと、「14万じゃ片道やなあ」とつぶやいていた。私は、それじゃあ帰って来れないですねと言った。それで椅子を勧められ、店のカウンターの横に座った。
一気に通常の感覚が取り戻されていくのを感じた。だが拍子抜けが止まらず、落ち着かない。何だったんだろうか。私は本当に滑稽なヤツだ。1人でから騒ぎしてしまったのだ。だがよく考えてみると、これはコダマさんが急に驚くようなことを言うのが悪いのではないかと、もうコダマさんのせいにしようと思った。
だが、そんなことは関係なくコダマさんは普通の様子でパソコンに向かっている。「BRONCHOというバンドがいてね、その曲がダダダダダダみたいに始まるんだけど、それに北斗の拳の映像を合わせたら面白いんじゃないかと思って、朝から探しているんだけど、それが何の曲だか思い出せない。YouTubeにないのかも知れない」
YouTubeで一曲一曲聴いて探しているらしい。アップルミュージックとかで全部流せば見つかるんじゃないですかねと言うと、「それだと面白くないんだわ」と言われた。
少しの間その様子を眺めて、昨日の夜からいろいろ考えてしまったことを話した。「まあ今お金を借りてまで行く意味はないよ」と言われた。それから、最近面白いことはあったかとか、何を面白いと思うかとか、何かやりたいことはないのかとかの話をして、話をしてと言っても冴えなさすぎる私にコダマさんが説教をするみたいなやつだ。
今コダマさんは展示に使うための装置を作ることに力を入れているようだった。3Dプリンターで注文やらいろいろして作っているらしい。その装置の仕組みを力説してくれるのだが全く理解出来ない。3回ぐらい説明してもらってやっと少しだけ理解した。
高円寺の道をゆく人の明るい気配を、開いた引き戸から感じながら話していた。気がついたら日が落ちていた。
「蟹ブックス行こうや、案内してや」私も蟹ブックス行ったことないですけど行きますか、と蟹ブックスに行くことになった。まだ店を閉める時間ではないはずだが、コダマさんはガラガラとシャッターを閉めてから歩き出した。
蟹ブックスにて、私は穂村弘の詩集のようなものを買った。コダマさんはもっとよくわからない本を買っていた。店を出て商店街を歩いていると、「ダイソーでベルトを買いたい」ということでダイソーに寄るとベルトを買ってその場で着けていて、面白かったので写真を撮った。
そして「この本をラーメン食いながら読むわ」と言ってコダマさんはすぐに潰れそうな感じの綺麗なラーメン屋に消えていった。私は全てに拍子抜けしていて、何だか意味のわからないことばかりだと混乱した。
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