栃木県立宇都宮高校『されど、ブヨは尻で鳴く。』(2020年高校演劇関東ブロック大会茅野会場)

ここからしばらくは「アフター6ジャンクション」(2020年8月19日放送)の「高校演劇特集2020」で放送に向けて取材したWEB SOUBUNの演劇部門出場校の取材報告を掲載していきますが、きょうはその前段階、今年2月に行われた高校演劇関東ブロック大会茅野会場で『されど、ブヨは尻で鳴く』を上演した栃木県立宇都宮高校への取材報告を掲載します。

宇都宮高校の部員は19人(2020年8月現在)。一時廃部寸前になるほど、部員が減ったそうですが畑先生が顧問に就任後持ち直し、『されど、ブヨは尻で鳴く。』(以下『され、ブヨ。』)で25年ぶりの県大会出場、初の関東大会出場を決め、見事優秀賞を獲得しました。宇都宮高校がギリシャ演劇をやるきっかけは2016年に畑先生が演劇好きの学校職員さんから「ギリシャ演劇をやってみたら?」と水を向けられたことでした。その時は、話が立ち消えになりましたが、2019年に別の部員から「ギリシャ演劇」について再び話が持ち込まれました。高校演劇界をめぐっては全国大会にシェイクスピア、オスカー・ワイルド作品といった翻訳作品を演じる学校が出場を決めたという高校演劇界の流れもありました。ギリシャ演劇の中で白羽の矢が立ったのが社会風刺を取り入れた喜劇を作っていたアリストパネース(アリストファネス)です。代表作の一つ『雲』の高津春繁訳を部長の宮野君が翻案して作られたのが、『され、ブヨ。』のもとになった『つまり、ブヨは尻で鳴く。』その後、部は代がわりし、登場人物などに変更を加えて『されど、ブヨは尻で鳴く。』へと生まれ変わりました。作品は、ソフィストと呼ばれる弁論家の活動が盛んだった上演当時の紀元前423年のギリシア・アテナイが舞台。ソフィストたちは弁論というよりも金銭と引き換えに詭弁を教えるという面が強く、人々から悪いイメージを持たれていました。この中から生まれてきたソクラテスらを描いた作品です。舞台上には白い布を巻き付けた男子高生たちが現れ、会場の空気は一気に古代ギリシャへ飛びます。宇都宮高校演劇部の特色は、即興劇のインプロを用いることで、この作品のなかでも弁論シーンでインプロを演じられるのですが、そのテーマは「素晴らしい演劇」について。そこでかわされる議論は「テーマ性」を重視する高校演劇の審査への痛烈な批判になっています。ただ、高校演劇審査のテーマ偏重主義を批判すればするほど、そのこと自体が「ある種の高校生らしさ(男子校生らしさ)」というテーマ性を帯びるという皮肉。いずれにせよギリシャ時代世相を風刺した作品が現代によみがえり、高校演劇界の風潮を揶揄した内容が素晴らしく、そして、何より面白かった!会場一の爆笑をさらった作品でした。演劇配信サイト「観劇三昧」にて関東大会の模様が無料で配信されているので興味を持った方はご覧ください。
https://v2.kan-geki.com/streaming/play/1748

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