僕ら、人脈広げたくてぇ〜
朝の10時頃
梅田に出かけようと環状線の駅へ向かっていたら、突然知らない人に声をかけられた。
振り返るとそこには知らない男女の2人組が立っていた。
そして僕に話しかけてきた。
「お兄さんここら辺でオススメのお店知らないですか?」
急に声をかけておきながら馴れ馴れしく話しかけてくるその態度を鬱陶しくも思いながら、話だけは聞いてあげることにした。
聞けば彼らは色々な人にオススメの店を紹介してもらい、その店に実際に行くことで全国の美味しい店リストを作ることが目的ならしい。
その流れでたまたま僕が声をかけられることとなった。
「この活動をきっかけに人脈広げて行けたらなーって思っててー」
はい出た、"人脈" というワード。
僕は今までこの言葉を口走る奴にロクな印象がなかった。
過去に一度急に中学の時の同級生に呼び出されて、時間を作って会いに行くとネットワークビジネスの勧誘をされた。
「ナンジョウもこれを始めたらどんどん人脈広げていけるよ‼︎」
そんなよく分からん繋がり広げてどうなるねん。
人脈広げるにしても、こっちはこっちで信じられる人脈を広げていくわ‼︎
こういった経験から、その言葉を発する奴にはより一層警戒心を抱いてしまうようになった。
すると男側が僕にスマホの画面を見せてきた。
そこには日本地図に沢山のマークがされており、その場所が実際に進められていったお店の場所ならしい。
よく見ると、東北の方だけマークが少なかった。
「今ここどうしても埋めたくて頑張ってるんすよー!」
「あーそうなんすか。いいっすねー」
「何かオススメの店ありませんか?」
僕は引っ越してきてまだ一年ほど。
この1年間コロナ禍でロクに飲み屋など行けていない。
だから自分の住んでる街のお店もほとんど知らないのだ。
その旨を伝えると、別にここら辺じゃなくても大丈夫だと言ってきた。
「お兄さんの友達でこの東北の方出身の子とかいないっすかー?」
知っててもお前なんかに教えるかバカ。
見ず知らずの男に売られる友達の身にもなれや。
そう、基本こういった奴は人のパーソナルスペースに平気でズカズカ入ってくる。
早くその場を去りたかったが、中々タイミングが掴めずに時間だけが過ぎていった。
「地元はどこなんすか?」
「高槻なんすよー」
「あータカツキング?」
「あ、そうですそうです‼︎関ジャニ村上くんの出身地です!」
地元のことを相手が知っていたことに少しテンションが上がってしまった。
しかし、その振る舞いが仇となったのか彼はどんどん僕を質問攻めにしてきた。
「何ですみやすいと有名な高槻から出ようと思ったんですか?」
「まあ仕事の関係で…」
「お兄さんちなみにお仕事何してんすか?」
こんな時オーディション組芸人ならあるあるだと思うが、決して芸人をやっているとは言わないことが多い。
「ほとんどフリーターですかね。」
「お金ないのにこっちで一人暮らしって少しきついんじゃないですか?」
もうほっとけや。
別にお前に関係ないやろ。
やはり"人脈"が口癖の奴は一筋縄では行かない。
「もしかして、芸人さんですか?」
当てられた…
その言葉ずっと避けてきたのに当てられた。
こうなったらこっちも否定することはできず。
「まあ芸人やってるんですよ。まだ何もできてないですけどねー」
と芸人やってるだけで浮かれているような奴ではないという振る舞いをわざわざ見ず知らずの人脈男にとってしまった。
すると男が思い出したかのように
「じゃあ、高槻でオススメのお店ないですか?」
と聞いてきた。
高槻でオススメの店というと、一つ心当たりがあった。
その店は「舟屋」という店名で、イカ料理が専門の居酒屋である。
この店は父親の知り合いが経営している店で、食事は一度しか行っていないのだが、イカ料理の数々がどれもこれもハズレなしで美味しかったことを鮮明に覚えていた。
僕自身、さっさと目的の梅田に行きたかったこともあってその店を紹介してあげることにした。
「高槻の舟屋っていう店がオススメですよ!」
すると2人はスマホで店を調べ始めた。
「この店ですか?」
「あ、そうですそうです!」
2人は黙々とスマホで店の情報を調べる。
「……なんか、イカばっかりですね。」
しばくぞお前。
こっちせっかくとっておきのお店紹介したったのに、取っていい態度と違うやろ。
「え?この写真の四種類のイカの刺身って全部味違うんですか?」
知らん‼︎
食べたか覚えてない。
一回しか行ってへんから。
紹介するんやなかったわ。
そう思っていると、男は最後にラインを交換してほしいとほざいてきた。
僕の経験上、こういう奴は何故か最後に見知らぬ人とライン交換をしようとしてくる。
話している途中に薄々感づいていた。
どうせコイツもライン教えろって言ってくるんやろな。
「じゃあお願いします。」
と言って彼はラインのQRコードを差し出してきた。
…いや、お前が教えろって言っときながらこっちが読み込むんかい。
最後の最後まで図々しさを見せる人脈男。
やはりこういった奴には関わらない方がいい。
「またスタンプ送ってくださいー!」
と言ってきたが、そのまま僕は彼のラインを削除してその場を立ち去った。
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