Remember with cake


「お疲れ様でしたー。」

私は、誰もいないオフィスに一礼をして職場を去った。現在の時刻は午後20時、冷たい風が自分の頬に強く打ち付けられる。

職場を出てから一気に倦怠感が増した。

「今日は、特に買うものもないしこのまま帰ろう。」

なんて事を思いながら、近道で職場から最寄りの駅まで歩こうとした。細い路地みたいな所を少し早歩きで歩いていると聞き覚えもないような不思議な声で「すみません。」と言われた。どうやらチラシを配っているようだ。

「新しくできたケーキ屋さんのチラシです如何ですか?」

「はぁ。」と言ってしまった。明らかに早く帰ろうとしている人の足を止めるなんて、なんて人!と言いたくなったがグッと堪えた。通り過ぎようと

したがチラシを配っている店員さんらしき人は、ニコニコと少し怖いくらいの笑顔でチラシを差し出している。なんとなく怖いと思ったのか私は

チラシをパッと取り、路地をもっと早歩きで出て行った。路地を抜け切った途端いつも運動をしていないせいなのか息切れしたので立ち止まった。

ふと、貰ったチラシに目をやると今いる所からそう遠くない場所にケーキ屋はあるみたいだ。しかもほとんど駅の高架下にあるみたいだ。

「試しに、行ってみようかな久しくケーキなんてたべてないし。」

そう思いながら、人でいっぱいの繁華街を歩いていった。


駅に着くとやはりチラシに書いてある通りにケーキ屋さんが建っていた。外はとてもメルヘンで、かといって少しレトロな感じの外観だった。絵本にでてきそうな、そんなケーキ屋だった。遠くに居てもケーキ屋だとわかるような見た目をしていた。

「ケーキなんていつぶりだろう。」

そんな事を考えながら店のドアを開けた。開けるとクッキーを焼いている甘い匂いが鼻の中をふきぬけた。ケーキショーケースには、美味しそう

なケーキがが並んでいる。どれにしようか悩んでいると、「オススメは今が旬の林檎を使った林檎のムースチーズケーキです。」

と言われた。特に何を食べると決めていなかったから

「じゃあそれで」

と答えた。店員は

「それではケーキボックスに入れますので少々お待ちください。」

と言って奥に引っ込んでしまった。あたりを見回すと客は誰もいなかった。私だけが店内にいるようだ。少し店内からから小さく可愛らしいオルゴールの音が聞こえているのを感じていたら後ろからカランコロン~とドアベルが鳴った。少し反射的に後ろを振り返ると三歳くらいの女の子とそのお父さんらしき人が立っていた。女の子は入ってくるや否や、ケーキショーケースにかぶりつくかのように勢いよく張り付いた。女の子は目をキラキラさせながら父親に

「これ全部食べていーの?」

を聞いていた。父親は子供に「一個だけだよ。一人一個まで」

と優しく答えていた。子供が目をキラキラさせながらケーキショーケース横目に父親が私に

「店員さんはどこにいらっしゃいますか?」

と聞いてきた。私は少し慌てて

「あー、えっと箱に入れにいくのでお待ちくださいと言って奥に入って行きました。」

と丁寧に答えた。

「そうですか」

と父親の淡白な答えを聞いてそのあと私は少し間を空けて聞いた。

「お子さんへの誕生日ケーキですか?」

と言うと、父親は

「ええ。そうですね。」

と答えた。それを聞いていたのか否かさっきまでケーキショーケースを見ていた女の子がこちらに少しトコトコと歩いて、

「そうだよー!今日は4歳の私のたんじょうびだよー!」

と明るく答えた。私は目線を合わせようとかがんだ。続けてこう言う。

「パパがここのケーキ屋さんでケーキをよやくしててそれを取りにきたの!4歳になる!」と言った。 私は
「何のケーキ食べるの?」

と聞いた。女の子は、

「これ!」

と言ってケーキショーケースを指した。苺のショートケーキを指差して

「へぇ。そっかいいね。」

と言いケーキショーケースに目をやると反射して女の子の顔が写った。見たことあるような顔をしている。女の子に目をやるとやはり見たことある顔だ。

続けてこう言う。

「パパがここのケーキ屋さんでケーキをよやくしててそれを取りにきたの

4歳になる!」

と言った。 私は

「何のケーキ食べるの?」

と聞いた。女の子は、

「これ!」

と言ってケーキショーケースを指した。苺のショートケーキを指差してい

「へぇ。そっかいいね。」

と言いケーキショーケースに目をやると反射して女の子の顔が写った。見たことあるような顔をしている。女の子に目をやるとやはり見たことある顔だ。

た。

というか私だった。

思わず私は小声で「えっ」と小声で言ってしまった。これはあの時の……4歳になる私がそこには立っていた。実家で写真を見ていた時に出てきた、4歳の誕生日の時の写真と同じ見た目をしている。黒い小さなリボンがついている赤いチェック色のワンピース。当時の私のお気に入りだった。まじまじと見ていたものだから、私・・・4歳の私が

「どうしたの?」

と首を傾げて聞いてきた。思わず私は

「あぁ、ごめんね。そのワンピースかわいいなと思っちゃって。」

とニコニコしながら言ってしまっていた。4歳の私は、パアァっと顔をあかるくして、元気にこう言った。

「でしょ!これおかあさんが誕生日プレゼントとしてくれたの!『ハッピーバースデー』って言ってくれたの!」と目をキラキラさせながら言ってきた。そういえばそうだった。あのワンピースはお母さんが作ってくれたんだ。貰った後もずっと着てたなぁ。と考えていたら奥に行っていた店員さんが戻ってきた。私は慌てて立った。店員はにこやかに

「あ、予約なさっていた方ですね。こちら苺のホールケーキです。」
と丁寧に渡した。

4歳の私は明るく元気に

「ありがとうございます!」

と言った。お父さんらしき人が会計をしているのを見てやっぱりそうだと確信を持った。自分のお父さんだった。今となっては自髪も増えておじいさんっぽくなったが会計している時のお父さんは若かった。声が今よりも若々しくて気づかなかった。会計を終わらせるとお父さんがこちらに目を合わせて

「それでは」

と会釈した。雰囲気はやはり今でも変わらないと思った父と手を繋いだ4歳の私は今の私に手を振って

「バイバーイ!おねぇちゃん!」

と元気に言った。私は4歳の私に優しく

「ハッピバースデー。」

と返した。 ニコッと笑ってくれた気がした。

扉がバタン!と閉まると店員さんが

「以上でよろしいですか?」

と聞いてきた。「はい」と答えようとしたが自然に私は、

「苺のショートケーキもください!」

と言っていた。店員さんはにこやかに

「かしこまりました。」と言った。

ケーキ屋の扉を閉めると雪が降っていた。ほんの少し遠くでニュースキャスターの人がリポートをしている。

久しぶりに雪を見た。綺麗だった。

家に着くと、私はコートを脱がぬままリビングの机にケーキを出した。苺のショートケーキと、林檎のムースチーズケーキが入っていた。箱の中に入っていた小さな付属のフォークで苺のショートケーキを食べた。何だかとても懐しい味がした。私は苺のショートケーキを食べ終わらせると二個目の林檎のムースチーズケーキを食べながら、カバンに入っていたスマホを取り出し、実家に年末帰る連路をしようと電話をかけた。

「もしもしお父さん?元気にしてる?あのさ…」

雪が少し窓ガラスのふちに溜まっていた。

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