見出し画像

カラーキュートアグレッション

「この色とこの色を混ぜたらこの色になります。この色美味しそうですね!食べると甘さに柑橘系の爽やかな風味!そして分離したカラフルな色がパチパチ弾けて美味しいですね!」
…先生まーた色を食べる話してる…絵の具なんて食べれやしないのに、でもこのパチパチは食べてみたいな…
美術を担当している咲月先生はこの色は何味がするか?って授業中に1人で勝手に盛り上がっている。大半の生徒が頭のネジが抜けた先生だと思っているが、美術部員を筆頭に一部生徒に絶大な支持を得ている。が僕には理解できない。
今回の説明は特にだ、“甘さに柑橘系の爽やかな風味”と言っているが…甘さを表すならピンクなどであろう。柑橘系と表すのは普通オレンジ色や黄色強いて言っても緑だが、この色は水色をしている。“分離したカラフルな色”は多分このオレンジ色を表しているのだろうが…“甘さに柑橘系の爽やかな風味”の柑橘系がこのオレンジを指しているというならまだわかるが…分離しているのは…あーもうわかんねー
「なんでこんな味なんですか」
「それはねぇ…」
…え?
僕は頭の中で言ったつもりだったのに、声に出していたのを先生が返答したので気がついた。いつもは、みんなが先生が色の味に熱弁しているのをただ聞くことしかなくて、先生がどうしてそう思ったのか聞いた生徒は、僕が初だ。
「この水色は白混じりなのはわかりますね?」
水色は青色の絵の具に白を混ぜて作るから当たり前だろう。
「はい、わかります」
「この白は砂糖が加わった感じがします。柑橘系と言ったのは、この水色は、黄色寄りの水色。言うなれば、金春色に近いと思います」
黄色寄りの水色…?訳がわからない。でも確かに、これは青色に白を混ぜただけの色ではない。“黄色寄りの水色”という言葉を反芻した。が、全くわからない。そんな困惑した僕の顔を見ながら、先生は埃を払い、パネルを見せた。綺麗な色の円が描いてあった。
「水色は確かに青と白を混ぜると作れますが、青と緑の間を見て下さい。この色は授業でやりました“シアン”と言う色です」
あ、確かにこれは水色だ。でも隣合う色は緑だ、緑寄りの水色でもよくないか?
「黄色寄りではなく、緑寄りでもいいのですが、そうすると若竹色辺りを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか?緑のイメージと混同しないように黄色寄りの水色と言いました。」
わかるようなわからないような…“緑のイメージと混同しないように”というのは、いい意味で独学、悪い意味で主観だ。でも緑寄りの水色というのもいまいちイメージがつかない…思い出してもエメラルドグリーンみたいな…?いや、それは確かにグリーンだ。
「では分離したオレンジ色は何故パチパチしてると思ったでしょう!?」
ぼ…僕に聞いているんだよな…?
「え…えーと水色とオレンジは夕焼けの色みたいで…心暖まる味…だと思います。」
はっ…?!いや先生は何故パチパチすると思ったかを聞かれたのに、自分が思うパチパチの味を答えてしまった!う、うわ、先生と同じような色の味について答えたし、先生の顔もキョトンとしている。
「…あ…あははは!確かに!水色とオレンジは夕焼けの色みたいで、パチパチしてるけど暖まるような味をしてる。素晴らしい!はなまるあげちゃいます!」
良かった…のか?これは?引きつった笑顔をしていることが自分でもわかった。
「パチパチしていると言ったのは、色の円…色相環を見て下さい。水色とオレンジは円の反対側にあります。補色や反対色と言います。この組み合わせは対立した色です。だからパチパチ弾けるような色と言いました。」
補色。水色とオレンジが合わさる。それって混ぜると…何色…???
「本来、補色を混ぜるとシアン、マゼンダ、イエローの3つが揃い黒くなります。しかしこの絵の具はここ最近の技術で分離させています。鮮やかさを保ちながら、水色とオレンジが共存し、お互いを引き立てているのです。」
鳴り響く鐘の音が静かな教室に射している。
「あ、授業が終わりましたね!号令お願いします!」
「起立、気をつけ、礼。」
「ありがとうございました」
色って直感だけだと思っていた。絵を描く奴は才能だけで描いていると思った。でもちゃんとした理由とか理論とかあるんだ。
「だったら僕も…。」
周りがこちらを見た。え?また声に…。
ただでさえ授業中に目立ったのに、そりゃあ見るのもわかるが、恥ずかしいじゃないか!
休めない休み時間になったとさ。
おしまい

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?