続けた先に思うこと、とこれから 02

ラッパーのKMCとの出会いは新宿のゴールデン街でした。
私がバイトをしている店に、友人の安野(サヨナラボーイという最高のバンドをやっている)がKMCを連れてきてくれたのがきっかけでした。
KMCに「俺が出てるからみてくれ!」と言われてRatchildのMVを見た記憶があります。

Hiphopは当時THINKTANKとか、Fla$hBackS、Sickteamあたりを聞いていて、興味はあったけど深掘れていない状態で勿論ラッパーの知り合いなんて全然いない状態でした。

そんなこんなでKMCと長く一緒にいるようになる中で、かなり色んな音楽、カルチャーを教えてもらいましたし、東京だけではなく静岡の人たちや、色んな方々と出会わせてもらいました。
KMCが静岡の吉田町から東京に通っていたときの話とか、その頃の渋谷は特別だったとか、私が通ってこなかったHiphopにどっぷりな人たちの”リアル”な話をたくさん聞かせてもらいました。同じ時同じ街にはいたはずなのに、自分がいなかったカルチャーや時の流れの話を聞くのはパラレルワールドみたいで本当に面白かったです。

遊びに連れてってもらっていたHiphopのイベントにはVJがつくような雰囲気ではなくて、私もVJからはすっかり離れていましたし、自然と何もしない状況が続いていました。
でも何かやりたい、何か作らなければ、自分は生きている意味がないと思ってしまうような(この辺はもう病気のような感じだったと思います)焦りがずっとありました。今はもうそんなことないんですけどね。この心境の変化も自分の中では大きいです。

そんな矢先、KMCから「押忍マンと一緒にやった曲のMVを作らないか?」と話をもらうことができました。

右も左もわからないまま作った初めてのMVで、しかも変に完璧主義な私は理想通りの編集ができず、中々進まなくていつまで経っても完成しないのでKMCにピシャリと言われた記憶もあります。(ここら辺は今でもあまり変わってないかもしれないです、ごめんなさい)
このMVは特別な1本です。

そこから映像の制作会社に勤めたりしたんですが、あまりの激務で体調を崩したり、また映像が嫌いになってしまうような出来事が続いて、お酒に逃げて精神も崩してしまったり、すっかり疲弊してしまいました。

もう新しいお話を貰うのも怖くなってしまっていて、またしばらく時間が経った頃、監督の山本イクオさんが助手を募集していたので、何か作りたいけど一から着手するのが怖かった私にはピッタリだと思い連絡させてもらいました。何より、MVをディレクションするノウハウを勉強したかったんです。
初めて一緒にお仕事させてもらったのは、確か名古屋のラッパーのNutt the purpさんのMVだと思います。

山本さんは発想がものすごく独特で、脳みその回路が異次元に繋がってるんじゃないか?と思うようなアイデアが飛び出したり、編集点のセンスや大胆なロケの使い方、何より私の中で一番の課題だった『思いついた良いアイデアを良い状態でアウトプットする』ことに関しても、現場では本当に勉強になることばかりでした。「大体わかったでしょ、もう作れると思うよ」と笑って言ってもらったときはなんだか私の中の呪いみたいなものが溶けて消えたような気持ちになったのを今でも覚えてます。一番尊敬する師匠です。

そして山本さんの元で修行した後の初監督作品がKMCの「お前の部屋には文鳥が必要だ」でした。

コロナ禍で撮影に制限がある中、これまたコロナで変わってしまった生活を歌った曲だったので、ほどんどを部屋の中で完結させて作るスタイルを取りました。STUTS君が友情出演してくれたり、そもそも変わったタイトルだったこともあって話題になりましたね。流派-Rでも取り上げてもらって、テレビで自分の作品が流れて飛び上がって喜びました。
自分が思い描いていた理想の映像と、実際にできたものの距離が短くなり始めたのはこのMVがきっかけかもしれないです。

そしてKMCが3枚目のアルバムをリリースするにあたり、表題曲の「ILL KID」のMVの依頼をしてくれました。

このMVは気合を入れて準備をしましたし、色んな人の協力のおかげで自分の中では一番と言っていいくらい良いものができたなと思えた作品になりました。80年代のHiphopのMVや悪魔のいけにえのテイストを取り入れられたのも嬉しかったですし、とにかく火を出したかったのでファイヤーダンサーのまさやさんとの出会いも大きかったです。まさやさんは私が監督しているKMCのMVほとんどに出演、お手伝いしていただいてます。本当にいつもありがとうございます。

周囲からも好評の声をいただけてほっとしていた頃、KMCから「THA BLUE HERBのBOSSさんがこのMVを褒めていた」とメッセージが来て本当に驚きました。KMCが前からO.N.Oさんと親交があるのは知っていたのですが、まさか…といった感じで最初は信じられませんでした。
だって、私の中のTHA BLUE HERBといったらFUJIROCKのステージで見たり、大学生のときの友達とカラオケで「未来は俺等の手の中」を歌ったりと…そういう存在でしたから。

そんなメッセージがきて「コツコツやっていればこんなことが起こるんだなあ…」としみじみ感じていた頃、山本イクオさんからBOSSさんとMummy-DさんのMVを撮影するから、エキストラで参加してほしいと連絡が来ました。

現場に到着して自分の配置につくと、まさかのBOSSさんの真後ろでした。
初めて近くでお会いしたBOSSさんは、気迫というかオーラがものすごくて一瞬で体が硬直してしまうような感じで。
とは言ってもただのエキストラなので、リラックスして映像の邪魔にならないようにだけ気をつけようと思っていたのに、バッチリ画面に映っていて恥ずかしかったです。MVはさすが山本さん、という感じで素晴らしい作品です。

そしてこのエキストラがきっかけで、今回TBHRからリリースされるKMCのアルバム曲のMVを私が担当することになります。

つづく


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