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あおのめ

晴天の下、川は空よりも青かった。
私もあの袂に降りれば、空に溶けた私を深く青く写してくれるかもしれない。
それを目の奥にある脳味噌のちょうど真ん中の目玉で見る。
どれくらいかかるか、時間はそれぞれであろう。
耳が水の音を感じる。気がつく時、辺りは青の溶けたもう一つになっている。
そこは静かで、低くくぐもった風の鳴声が私の心臓の芯まで響いている。
私の鼓動までもが青に溶けているかのようだ。
少し此処を散歩しよう。
ゆっくりと動く事に圧力に押されて体が浮く。
木や草の葉が私と同じリズムで溶けては揺れる。
私はこの一部、否、この空間こそ私で、私のこの体、草木、大きく転がる砂利全て私なのだ。
鈍い太陽の光の下を何か影が横切った。
鳥にしては手足が細長く、また間抜けな形に見える。
よく目を凝らして見ると、それは空を大きく泳ぐ三毛猫であった。
満足そうに目を細め、伸び縮みを繰り返し泳いでいる。
誰かが、猫は神様だと教えてくれたのを思い出した。
あんなに間抜けで愛くるしい生き物が神様なら、私はどんなに良いだろう。
ツンと地面を蹴り、私は神様の空まで泳いで行った。
神様はクルクルとまるで踊っているかの様に泳いでいく。
私もそれを真似た。今これが永遠になれば良いのにと思わされるほど、その時間は心地良かった。
私は少しの出来心で神様に触れてみたくなった。
するとどうなるのか、私には見当もつかなかったが興味が背中を押した時、もう私の右手は伸びていた。
優しく神様の背を撫でる。毛は蕩ける様に私の指に纏わり付くと青と混ざっていく様だった。
慌てて神様を捕まえようと力を入れた時、神様は空の青に溶けて消えてしまった。
私は少しの罪悪感を抱えたが、直ぐに別の興味がそれを消した。
もし、私が私の腕を触ったらどうなるのだろうか。気になって仕方がない。
空に浮いたまま、私は私の右手で左手首を軽く握ってみる。
私の左手首は、今にも穴の開く砂の城の様に感じた。
もう少しだけ強く握ってみようか、どこまでの力で握れるのだろう。子供の様に胸が高なった。
すると少しばかり力を入れすぎたのか、私の左手首はホロホロと溶け出していく。
それが面白くって、もう少し、もう少しと握ってる間に、気がつけば私の左腕は肩の辺りまで無くなっていた。
あぁ、私の左腕も、神様も、みんな青になってしまった。
それから私は空に唯浮いてみたり、片腕で不格好に泳いでみたりした。

#雪めっちゃ降ってんな

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