メタンを液化した燃料であるLNGがカーボンゼロである訳がない。クレジットで削減する仕組みの限界

森林を維持してのクレジットとか発生したCO2を補足して地下注入してのクレジットとかで相殺する仕組みそのものの限界があるという事でしょう。


日経2022年3月28日 2:00 [有料会員限定]

「排出ゼロ」LNG、根拠薄く水増し疑い


二酸化炭素(CO2)排出実質ゼロと銘打つ液化天然ガス(LNG)が日本で出回り始めた。森林保護や再生可能エネルギー導入事業で創出されたカーボンクレジット(削減量)を組み合わせ、燃焼までに出るCO2を相殺する製品だ。ところが日本経済新聞の調べによると、一部で実際の削減量より過大に発行した疑いがある事業のクレジットが使われていた。買い手がCO2相殺の実態をチェックできるルール作りを急ぐ必要がある。

「カーボンニュートラル(CN)LNG」と呼ぶ製品が世に出たのは2019年。英シェルが開発した。実際はガス採掘から液化、燃焼までの工程でCO2は出る。売り手が排出と同量のクレジットを買い、地球全体で排出ゼロとみなす。

クレジット分を上乗せするので、価格は通常のLNGより100万BTU(英国熱量単位)あたり0.6ドル程度高くなるという。今の高騰前のアジアスポット価格が10~20ドルで推移していたのと比べると、3~6%割高になる計算。これは顧客にも転嫁される。

利用企業は燃料を変えずにCO2を減らしたと主張できる。引き合いは強く、英BPや仏トタルエナジーズも参入。米コロンビア大の調べでは、21年4月時点で輸送船13隻分だった累計取引は9月に20隻以上となった。8割は日本・アジア向けで、東京ガス大阪ガスはシェルなどから仕入れて販売。INPEXは地方ガスに卸している。日本のLNG輸入量に占める割合はまだ1%程度だが、今後は高まる見通しだ。

問題はクレジットの「質」だ。発行量に対して実際のCO2削減効果が小さいと、排出は差し引きゼロにならない。民間クレジットは発行量の算定基準が曖昧で、認証後に森林乱伐など事態の変化が生じても反映しないケースが多い。効果が不透明なクレジットがCNLNGに紛れ込みやすい状況がある。

クレジット認証機関の公開データを独自に分析したところ、22年1月末までの国内販売分に組み込まれていたクレジット量は累計281万トンだった。個別に発行事業をたどると、全体の30%はインドネシアの森林保全事業「カティンガンプロジェクト」が母体だった。

同事業はすでに日経新聞の調べで、実際のCO2削減効果と比べ最大3倍の規模で発行している水増しの疑いが判明している。新規開発規制で乱伐の恐れがある区域が3分の1に縮小したのに、全域が伐採される前提でCO2削減効果をはじき、クレジットを出し続けている。

22%を占めるペルーの国立公園保護事業のクレジットも同様の疑いがある。先進国からの援助で森林が守られ、国立公園の開発リスクは抑えられてきた。複数の環境団体は、事業がなくても森林を維持できる場合はクレジットを発行できないのが原則だと指摘する。かなり前に認証され、効果が持続しているか不透明なものも使われていた。

衛星技術やセンサーを活用し、発行後も定期的に事業を監視すればクレジットの実効性を保証できる。しかし、きめ細かい検証を続けている事業はそれほど多くない。

国内でCNLNG普及組織を立ち上げた東ガスのソリューション共創部は「適切なプロセスを経て発行されたクレジットを独自の選定基準で見極めて利用している」と述べた。シェルは事業内容を巡る日経新聞の問い合わせに回答しなかった。

利用企業は詳細な情報を得にくい。東ガスは「(CNLNGに関連する)事業名は商品の提案時に共有した」と主張する。ただ21年9~10月に購入企業に聞き取るとクレジット発行事業名を把握していない例があった。環境省の指針は、排出量を相殺した製品について事業名公表を求めている。

オーストラリア政府はカーボンニュートラルをうたう製品を認証する制度を設け、対象事業者に排出量相殺の根拠の公表を義務付けている。日本のCNLNG販売についても、売り手はクレジットの根拠や発行事業の内容を積極的に開示することが求められる。

(西城彰子、兼松雄一郎、石橋茉莉、宗像藍子)