音と声
幼稚園に入る前、家の庭で遊んでいる時に、スーツに革靴の男性が私の家を訪ねてきたことがありました。
当時、林の中の一軒家だった私の家に、スーツを着た人が訪ねてくるのは非常に珍しかったと思います。おそらく銀行か何かの営業だったのでしょう。
その時、その人が庭の敷石をカツッカツッと歩く音がとても心地よくいい音に聞こえ、思わず私が発した言葉が「いい声!」でした。
それを聞いたスーツの男性は、私のほうを見てニコッとしたような気がします。
当時の私は、「音」も「声」も耳に聞こえてくるものとは理解していたようですが、「音」と「声」の違いはよくわかっていなかったようです。
その話を聞いた、父、母、兄はしばらくこのエピソードを思い出話にしては笑っていました。今では普段のくらしの中で、「音」と「声」をうまく使い分けていると思っていますが、改めてその意味を調べてみると、意外とその違いは微妙な気がします。
小学館 デジタル大辞泉 (Weblio) によると、
音は
物の振動によって生じた音波を、聴覚器官が感じとったもの。また、音波。人間の耳に聞こえるのは、振動数が毎秒約16〜2万ヘルツの音波。
うわさ。評判。
鳥獣の声。
訪れ。便り。音沙汰。
声は
人や動物が発声器官を使って出す音。のどから口を通って出る音。「
言葉の発し方。語調。アクセント。
虫が、羽や足をこすり合わせて出す音。
物がぶつかったり、すれたり、落ちたりするときに振動して発する音。
神仏などが人に告げる言葉。
人々の考え・意見。また、風評やうわさ。
(多く「…のこえを聞く」の形で用いる)年月や季節の、それとわかる感じ。けはい。
音声学で、声帯の振動を伴った呼気。有声音。
古く、訓に対して、漢字の音(おん)。
などという意味が出ています。
一般に人や動物が発声器官を使って出す音は「声」と言い、耳に聞こえる空気や物の振動を「音」と言うようですが、なんとなくどちらも使えるような場面もありますし、反対に「音」と「声」を使い分けないとすごく違和感を感じる場合もあるようです。
そもそも「音」でも「声」でもないような季節や気配みたいなものにまで「音」とか「声」を使うことがあるのですから、本当に言葉は面白いものだと思います。そして「音」と「声」を何となく使い分けて使いこなしてしまう私たちの能力もすごいなと思います。
そういえば幼いころ聞いたスーツの男性の靴音は、遠い昔に実写版でやっていた「マグマ大使」の宿敵「ゴア」の歩く靴音に似ていました。私はあの靴音が大好きです。私もスーツを着てあんな靴音で歩いてみたいと思ってきましたが、なかなか実現しません。
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