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地質調査道具の悲しい思い出

地質調査に欠かせない道具に、ハンマーとクリノメーターというのがあります。

簡単に言うと、ハンマーは石をたたき割るトンカチのような道具で、クリノメーターはコンパスの一種で、地層の走行 (地層と水平面との交線が伸びる方向)と傾斜 (それに直行する地層の最大傾斜方向に沿った地層の傾き) をはかる道具です。

私はこの地質屋にとっては命と家族の次ぐらいに大切な道具で2度ほど悲しい思いをしています。

[ハンマーを真冬の川底に落とす]
私は高校に入るとすぐに地学部に入りました。ありがたいことに高校合格祝いに両親からハンマーとクリノメーターをいただきました。

当時ハンマーは、柄が木製のものか、エスティング社のヘッドと柄が金属一体型でナイロングリップのちょっと高級感のあるハンマーが定番でした。私はエスティング社の値段のはるハンマーをいただき、絶対なくしてはいけないと気を付けていたのですが。。。

エスティングのハンマー

ある寒い冬の日曜日、同じ地学部の同級生と二人で地質調査に出かけました。あまり川幅は広くない、けれども時々深いよどみのある川辺の露頭をハンマーでたたいていました。軍手はしていたものの寒くて手がかじかんでいたのでしょう、ハンマーがスポッと滑って、みごとに深い淵の底にドボンと落ちてしまったのです。

気が動転した私はすぐに拾いに行かねばと服をぬぎかけました。しかし真冬の凍てつくような日陰の川底、流れは速くないといっても深さはかなりあります。完全に頭まで潜って取りに行かなければなりません。友人は冷静に、危ないから止めとけと止めてくれました。

そのあとしばらく私たちは呆然と川底を眺めていましたが、潜る勇気も拾い上げる知恵もなく、調査を中断して、とぼとぼと帰路につきました。さみしい冬の午後でした。

親にはどう報告しようかと、帰りはずっと悩んでいましたが、結局正直に話さざるを得ませんでした。ハンマーは後で自分の小遣いをはたいて買いなおしました。

[クリノメーターより高いクリノコンパスのガラスをたたき割る]
会社に入って、研修の一環として野外地質調査がありました。給料ももらって、クリノメーターよりもうちょっと高級なクリノコンパスを入手して野外調査を行っていました。

やはり冬の終わりか春まだ浅い時期、片手にハンマー、片手にクリノコンパスを握りしめて火山岩地帯の地質調査していました。特に花粉症というわけでもなかったのですが、突然くしゃみに襲われて、律儀に口元を抑えようと、両手がふさがっているのも忘れて、無意識に両手を口元に持って行ってしまったのです。

くしゃみと同時にガシャンと音がして、なにごとかと手元を見ると、ハンマーの先がクリノコンパスのガラスを突き破り、コンパスの針がひしゃげていました。その時、多分私は変な声をあげたのだと思います。一緒に調査をしていた仲間たちが駆け寄り私の手元を見て、「どうしてそんなことになる?」と、私が私にしたかった質問をしてきました。

もう調査はほぼ終わっていたので、調査への影響は少なかったですが、心に受けたダメージは大きかったです。クリノコンパスは修理に出して無事戻ってきました。修理にかかったお金や時間よりなにより、クリノコンパスとハンマーを手にしてくしゃみをして、両手を口元に持っていく自分の愚かさにがっかりしました。

「クリノメーター」(2022年6月3日 (日) 10:54 UTCの版)『ウィキペディア日本語版』より、下図左はクリノメーター、右はクリノコンパス。

同じウィキペディアのページよりクリノメーターの部位の名前と地層の走行傾斜の測定方法。

今は年に1~2回、赴任先の南国で地質巡検をする程度ですが、地質調査道具は、高校、大学、会社員と時を経てなじんできた相棒たちです。

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