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海岸調査と新潟海岸線の後退

私が地学を学んだ新潟大学は日本海側の海が見える砂丘の上に位置しています。

私は海なし県の埼玉出身なので、海が見えるこの大学に進学するのがとても楽しみでした。受験の時も、同じ高校からこの大学を受験した友人と、試験の後、わざわざ誘い合わせて歩いて海を見に行きました。大学近くの海岸は広い砂浜でした。3月上旬の海岸はまだまだ日本海から吹きすさぶ冬の冷たい風と大波が打ちつけていて、とても荒々しいものでした。

私が理学部地質鉱物学科に在籍していた当時、学科の学生・院生全員で海岸調査を行っていました。これは私が入学する以前からずっと継続していて、学科の説明会で調査の意義や海岸の特徴や変化について先輩から説明を受けました。身近な海と海岸の環境に目を向ける良いきっかけになったと思います。

日本海に面する新潟の海岸線は冬期(12月~3月くらいの間)の大陸側から吹き付ける風浪により、海岸浸食を受けやすくなっています。実際、海岸浸食は私の在学以前から問題になっていました。

しかし、はるか昔は新潟の海岸は河川によって運ばれた土砂によってむしろ海岸が海側に前進する傾向があったそうです。

大学の位置する越後平野は信濃川、阿賀野川どいう大河川が平野を貫いて日本海に注ぎ込んでいます。特に新潟市内で日本海に注ぎ込む信濃川は、上流部長野県の千曲川と合わせて全長367kmの日本最長の河川です。

信濃川は古くから氾濫を繰り返し、そのたびに大量の土砂を海に供給し、海岸線を前進させてきました。山間部からの融雪出水と夏場の氾濫期に供給される土砂の量は、冬季の波浪による浸食を上まわり、明治まで海岸線は前進傾向が続いていたと思われます。供給された土砂は波浪や沿岸流などによって河口から東西の海岸に運ばれ、広く砂浜海岸の発達を促進しました。

このように明治まできわめて発達の良い沖積海岸であった新潟の海岸ですが、明治中頃から始まった信濃川改修工事によって、状況が一変しました。主な改修工事は次のようなものです。

河身改修工事: 明治 8年から同 35年に至る河身改修工事およびその後の上流域砂防工事、発電用ダム建設などで信濃川の流出土砂は大きく減少しました。

河口突堤の築造: 明治 29年に起工され大正13年までのいくつかの補強工事を経て,現在のような突堤が完成しました。そのため流出した土砂は沖合に運ばれやすくなりました。また、西突堤先端は北方に約 1,000m突出していましたが,東突堤先端は西突堤先端より約 500m後方に位置していたため、河口から流出する土砂流は,無堤時にくらべて東方にそれやすくなりました。

大河津分水: 越後平野を洪水から防ぐ目的で,信濃川河口より上流約58kmの大河津から日本海岸寺泊までの約10km区間に新河道を開削しました。明治42年に着工し,大正11年に通水を開始するに至りました。この分水工事の完成で,旧河道において河口に流れ出る土砂量が減少し、また土砂も微細な浮遊砂が主体となりました。

もう一つ新潟市付近の海岸後退の要因の一つに、新潟市を中心とした水溶性天然ガス採取のための地下水の大量くみ上げによる地盤沈下があげられます。地盤沈下は昭和30年代から目立つようになり、場所によっては年間数十cmの沈下も見られました。

その後水溶性天然ガスの採取規制や、水溶性天然ガスの採取に伴ってくみ上げられた地下水を地下に還元するなどの対策がとられてきました。現在、一部地域では沈下が沈静化する傾向が見られますが、依然として地下水の汲み上げ状況によっては、地盤沈下の進行が懸念されています。

現在新潟海岸では海岸保全の取り組みが行われています。新潟県のホームページによると、沖合に波浪のエネルギーを低減させるための構造物(離岸堤・人工リーフ・潜堤)を設置し、堆砂させる(人為的に沿岸漂砂がとどまるようにする)ことで、海浜の回復を図っているとのことです。また、供給土砂の減少が著しく海浜の回復が望めない区域では、砂の移動を止めるための構造物(突堤工・ヘッドランド)の設置とともに、人為的に砂を海岸に供給すること(養浜)で、静的に安定した海浜を回復させる取り組みも行っているということです。

最近の気象変動の影響なども気になるところですが、継続した科学的モニタリングが重要だと思います。河川改修は流域住民にとって大きな利益もあったと思いますが、人間の活動は自然環境に予想外の影響を与える場合があることの一例だと思います。

新しい技術と科学的知見で、開発と環境保全のバランスをとっていくことが重要だと思います。それにはベースとなる客観的環境調査が必要です。地域の大学の活躍に期待したいです。

[新潟県公式ホームページ:土木部・河川管理課、3新潟県における海岸保全について 海岸侵食とその要因]


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