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自由な校風の元で自由を大切に思う気持ちは育てられた

私は埼玉県川越市にある県立高校を卒業しました。一時文化祭のウォーターボーイズが有名になりましたが、私が卒業したのはそれよりもだいぶ前のことです。

この高校には校則の代わりに、生徒が定めた「生徒憲章」と「生徒規約」というものがありました。私は生徒手帳に記された3条からなるシンプルな生徒憲章を時々見返しては、この生徒憲章が制定された背景や、生徒憲章で保証された自由の意味、そして自分で自分をコントロールする責任について考えていました。

[生徒憲章]

私達はあらゆる問題を真剣に考え、社会に対し広い視野と正しい判断力を養い、それらを基礎にした自主的民主的な活動を通して、私達の人間性を高めることが高校生活における重要な目標の1つであると考える。この観点から自主的民主的活動の制限は私達の目指すものと背反するものであると考え、私達は今後あらゆる表現の自由と、自主的民主的活動(政治的活動を含む)の自由を保証し、それらを健全で有意義なものに高めていこうとする努力を通して、私達自身の人間形成をはかっていくことに意見の一致をみた。私達はここに「生徒憲章」を制定し、この目標を達成する決意である。

第1条 あらゆる自主的民主的活動(集会への参加、その開催、サークルの結成、その他)の自由を保証する。
第2条 掲示、印刷物の発行、配布等のあらゆる表現の自由を保証する。
第3条 服装については個人の自由意志に任せる。

生徒規約には、届出が必要な事項 (校内施設器具の破損・汚損・紛失等、物品の盗難・紛失・拾得、自宅周辺での法定伝染病患者の発生、自主的民主的活動のための学校施設の利用、掲示物・印刷物 – 但し内容については干渉されない)、火気を取り扱う場合の許可取得、学校または付近の火災の対処、週番、体育時の運動服着用等についての記述があります。

ほとんど生徒の活動を縛る校則が無いに等しいのですが、学校側が生徒憲章と生徒規約を承認するにあたって下記付帯条項が付けられました。

1.生徒憲章は、生徒の達成すべき目標をかかげたものと理解し、生徒の自主性に申し合わせた努力目標として、学校はこれを尊重すべきものと考える。
2.生徒憲章にいう「表現の自由」には、個人攻撃等、ひぼうの自由は含まれないものと了解する。
3.生徒憲章および生徒規約にいう自主的、民主的活動には政党等校外の政治団体の争いが校内に持込まれることによって学校本来の目標が妨げられること、および暴力の行使は含まれないものと了解する。
4.服装については、高校生にふさわしく、簡素かつ清潔なものの着用が期待される。
5.生徒規約6の条項は県立高校としての管理権をさまたげないものと了解する

この記述も含めて、生徒手帳には生徒憲章と生徒規約が掲載され生徒全員に配布されていました。当時の先生はこの生徒憲章をしっかりと認識し、生徒の自主性を尊重してくれていたと思います。

それでも男子校ということもあり、見るに見かねた先生がたまに私たちにくぎを刺すこともありました。例えば、「高下駄で廊下を歩くと廊下が痛むからやめてくれ」とか「臭いから、汗だくの柔道着で授業を受けないでくれ」とか「体操服はロッカーに入れたままにしないで持ち帰って洗濯しろ」などです。

こんなに自由な校風でしたが、私が在学中には目に見えた政治活動などは校内では行われていなかったようでした。ほとんど荒れることもない静かな3年間だった気がします。

ただ一度、生徒会長選挙の折に、この生徒憲章に対して「この学校の生徒は自由を活かしきれていない。こんな生徒憲章は無意味だ」というような発言がある生徒会長候補者からあり、生徒会長選挙が大荒れになった記憶があります。生徒の自由を保証する生徒憲章を守ることに意義を感じている生徒が意外に多いことに驚きました。

私は高校に入るまで、付近では校則が厳しいことで有名な公立中学にいましたので、この自由な高校の校風に戸惑いましたが、この校風は私の人生のなかで、自由に対する考えを深める機会となり、重要な影響を与えてくれたと認識しています。

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