見出し画像

技術者倫理と公益確保

技術士法では3つの義務と2つの責務が定められています。

技術士法第四章では「技術士等の義務」として、以下のように定められています。

第四章 技術士等の義務
(信用失墜行為の禁止)
第四十四条 技術士又は技術士補は、技術士若しくは技術士補の信用を傷つけ、又は技術士及び技術士補全体の不名誉となるような行為をしてはならない。
(技術士等の秘密保持義務)
第四十五条 技術士又は技術士補は、正当の理由がなく、その業務に関して知り得た秘密を漏らし、又は盗用してはならない。技術士又は技術士補でなくなつた後においても、同様とする。
(技術士等の公益確保の責務)
第四十五条の二 技術士又は技術士補は、その業務を行うに当たつては、公共の安全、環境の保全その他の公益を害することのないよう努めなければならない。
(技術士の名称表示の場合の義務)
第四十六条 技術士は、その業務に関して技術士の名称を表示するときは、その登録を受けた技術部門を明示してするものとし、登録を受けていない技術部門を表示してはならない。
(技術士補の業務の制限等)
第四十七条 技術士補は、第二条第一項に規定する業務について技術士を補助する場合を除くほか、技術士補の名称を表示して当該業務を行つてはならない。
2 前条の規定は、技術士補がその補助する技術士の業務に関してする技術士補の名称の表示について準用する。
(技術士の資質向上の責務)
第四十七条の二 技術士は、常に、その業務に関して有する知識及び技能の水準を向上させ、その他その資質の向上を図るよう努めなければならない。

これから技術士試験を受ける人は、もちろんこの内容と意味をしっかり理解しておく必要があります。なかでも「公益確保の責務」については、技術士のみならず、すべての技術者が常に意識するべきことではないかと思います。

これは日本技術士会が公表している「技術士倫理綱領」の前文にも次のようにはっきり明記されています。

(前文の前半部分)
技術士は、科学技術の利用が社会や環境に重大な影響を与えることを十分に認識し、業務の履行を通して安全で持続可能な社会の実現など、公益の確保に貢献する。

また、本文の最初の2点、「安全・健康・福利の優先」と「持続可能な社会の実現」は、良識ある技術者が考えるべきものとして、非常に示唆に富んだ内容だと思います。

(安全・健康・福利の優先)
1.技術士は、公衆の安全、健康及び福利を最優先する。
(1)技術士は、業務において、公衆の安全、健康及び福利を守ることを最優先に対処する。
(2)技術士は、業務の履行が公衆の安全、健康や福利を損なう可能性がある場合には、適切にリスクを評価し、履行の妥当性を客観的に検証する。
(3)技術士は、業務の履行により公衆の安全、健康や福利が損なわれると判断した場合には、関係者に代替案を提案し、適切な解決を図る。
(持続可能な社会の実現)
2.技術士は、地球環境の保全等、将来世代にわたって持続可能な社会の実現に貢献する。
(1)技術士は、持続可能な社会の実現に向けて解決すべき環境・経済・社会の諸課題に積極的に取り組む。
(2)技術士は、業務の履行が環境・経済・社会に与える負の影響を可能な限り低減する。

私は、いろいろと悩みながら技術者としての仕事をしています。とくに公益確保と技術者倫理の問題は、私自身常に意識し続けなければいけないなと肝に銘じています。

昨日、私は、東京電力福島第一原子力発電所の事故をきっかけに、技術やシステム、廃棄物処理、安全管理、いざという時の住民避難などの側面から冷静に見直せば、本来であれば、原発は日本にそぐわないエネルギーだという結論がすぐに出せたはずだと書きました。

私が、いまだに福島第一原発の廃炉のめども、核のゴミ処理のめども、耐震も、住民避難も、ろくな進展もないまま、原発を推進することに異を唱えない技術者の倫理観について疑問を呈したのは、「科学技術に関する技術的専門知識と高等の応用能力及び豊富な実務経験を有し、公益を確保するため、高い技術者倫理を備えた優れた技術者」を国が認定するために始まった技術士制度に明記されている「公益確保」や「技術者倫理」から逸脱しているのではないかと思うからです。

原子力の平和利用のための基礎的な研究を続けることや日々安全操業のために努力を続ける個々の技術者や作業員の並々ならぬ努力は尊敬しますが、それと国民の安全や環境に対する影響をマネージしきれない状態のまま原発を推し進める政府や企業と、それに疑問も感じず、あるいは疑問を感じても見て見ぬふりをしたまま、さらには原発推進を後押しをすることとは大きな違いがあります。特に原発や原子力の研究・開発を行う技術者にはその責任の重さを技術者倫理に立ち返ってぜひ深く考えてほしいと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?