アウシュヴィッツに行ってみて

アウシュヴィッツに実際に行ったことがある。何年も前で私の中ではかなり重大な出来事だったけれど今までちゃんと言葉にしてきたことがなかった。
ホロコーストがなかった、なんて馬鹿げたことが話題になっていることもあって自分の感じたことを書いてみた。

とくに鮮明に記憶に残っているのは大量のトランクやメガネ、髪の毛
そしてそのトランクに名前と住所が書いてあったこと。
どうして名前が書いてあるのだろう。書かされたのだろうか?
私は素直に疑問に思った。それをガイドの方が説明してくれた。
みんな帰れると信じており、自分の荷物が分からなくならないように書いていたのだと。
当たり前の理由だった。
自分だって荷物を預けなきゃいけない時は名前や住所を書く。遠出をしなきゃいけない時も。ましてや手元にある唯一の財産だとしたら余計に。
その時、遠い過去になくなった人々ではなくて、今の私たちと同じなのだと実感した。
また荷物を返してもらえると思っていたからこそ、自分の荷物が分からなくならないようにすることは当たり前のことだ。

でも、その山積みにされたトランクは持ち主の元には戻らなかった。どんなに悲しいことか。
そしてそこに山積みにされているトランクたちもほんの一部だということにも衝撃を受けた。実際はもっともっとあって、展示できないほどあると。
つまりどれだけ多くの人が亡くなったのか、私は分かっていなかった。数字で知っているのと、あの膨大なトランクを見た後では、どれだけ多くの人が亡くなったのかの実感が全然違う。

実際にガス室にも入った。ガス室は暗くて陰気で汚かった。
私はガス室に入ったけれどガス室から出ることができた。でも当時の人々は誰も生きて出ることはできなかった。
だから、ガス室から出た時、無性に申し訳なくなった。生まれた時代や国が違っただけで私はガス室からでることが出来たことに。申し訳なくて辛くて無性に泣きたくなった。
でも涙は出なかった。あまりにも過去の遺物が残虐すぎて、その時はうまく受け入れることができていなかったのだと思う。

ガス室のことで初めて知ったことがある。
それは亡くなった方の遺体の対処を同じ囚人たちの手で行われていたこと、そしてその係りの者たちも周りに言わないように殺されていってしまったことだった。
なんて残虐なんだろうと思った。なんてひどいことができるのだろう。

私はちょうど解放された日の直後に行ったので献花されている花を直接見た。白い雪と味気のない壁に鮮やかな花が置いてあった。その光景が今でも鮮明に残っている。

次にビルケナウ収容所に向かった。
外はとてもとても寒かった。薄い雪が地面を覆っていて、収容所は遥か遠くまでずっと続いていた。どれだけ広かったのか唖然とし、そしてコートを着て防寒をしていてもかなり寒いのに、外でも中でも気温があまり変わらないような場所で、十分な衣服や食事を与えられずに過ごしたのかと思うと、私よりも年下になってしまったアンネがどれだけの苦しさの中でいたのかと辛くなった。

内部は二段ベットではなく何段ベットかもよく分からないベットが置いてあって、その一段に多くの人が寝ていたということ。

アンネはここにいたのか...
どれだけ劣悪な環境でいたのか、本当のところは私は何も分かっていなかったのだと痛感した。
彼女は時代が違ったら私だったのかもしれない。彼女は普通の女の子で楽しみたいこともやりたいこともあったはず。
なのにこんな場所で暮らさなきゃいけなかった理由はなんなのか。
日々の暮らしを、人生を、楽しみを奪ったのはなぜ??

ガス室の近くに所長の部屋があることも聞いた。近くで人が大量に殺されていたにも関わらず、所長は家族思いの人だったとのこと、飼っている犬を大事にしていたとのこと。

この話を聞いた時に、人が人として当たり前に持っているものを持っていないということがとても怖かった。
初めは矛盾がないのかと思った。こんなことをしていて罪悪感に囚われないのか、自分の子と同じくらいの子どもを殺して辛くないのか...
でも、彼らにとって収容所にいた人々は人間ではなかったのだ。彼らは人間には優しかった。だから家族思いでそちら側からみると優しい人。でも人間じゃない、殺されても当然と思っている人々に対しては最低のことができる。だって同等の関係ではないから。

そうしてしまう戦争が怖い。
差別が怖い。
人が人を区別するのが怖い。
区別しても根底にみな人間なのだと理解していないとそれは差別になる。

あなたが憎んでいるその人は、もしかしたらあなただったのかもしれない。
どういう時代にどこで生まれるかなんて誰も選べない。そんなことで差別するなんて馬鹿みたいだ。

常に想像力を働かせることが大事だ。
違うように見えても同じ人間で、同じように考え、悩み、暮らしている。
それぞれの人生があり、夢がある。
それを誰かが奪うことなんてできない。
決してしてはいけない。

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