体調を崩したとき意思が伝わらず不安に~プールに耳マークを~

第89回

難聴ソルのゆんたくTime

 

2018(平成30)年9月11日 島原新聞掲載

 

お盆前に実家へ里帰りしていたときのこと。水泳が日課になっている主人が、私を誘ってくれました。そこで、甥も誘って3人でプールへ行くことになりました。

 

プールに入るとき、私と夫は人工内耳も補聴器も外すので全く音が聞こえていない状態になります。

 

主人はいつものように脇目もふらず水泳に打ち込み、私と甥は水中ウォーキングを始めました。しばらくしてちょっと泳いでみようかなと思い、背泳ぎを始めた途端めまいが始まり、これは危ないと思い、急いで甥に「ちょっと気分が悪いけん、先に上がっとくね」と伝えて、プールから上がったその瞬間、その場に倒れ込んでしまいました。

 

こうなると自分ではどうしようもありません。自分で自分の声も聞こえないため、できるだけ声を上げて甥に、主人に知らせてほしいと頼みました。甥は手でOKを示してすぐに主人を呼んでくれましたが、私は気分が悪くなる一方でした。

 

プールのすぐそばに寝そべったままで恥ずかしいという気持ちもありましたが、横になった状態で動けません。吐き気も強くなり、その場に吐いてしまいました。少し頭を動かすだけで嘔吐してしまうし、寒いのか暑いのか分かりません。

 

具合が悪くなっている私は、普段なら何ともない匂いや湿気でも益々具合が悪くなり、早く別の環境に移してほしいと訴えているのだけれど、どうにも意思の疎通がうまくいきません。

 

周りの人もどうしてよいのか分からず、水を持ってきてくださったり、そのままじっと休むようにと仕草で伝えてくるのだけれど、声が聞こえないため、その意図が分からず、いつこの場所から移されるのだろう?そもそも私の声が相手に聞こえているのか?私の意志が届いているのかと、ただ不安な気持ちが募るばかりでした。

 

そうこうしているうちにプールのスタッフが担架を持ってきてくれ、救護室のようなところに運んでもらいましたが、その間にも担架の揺れの刺激で気分が悪くなり、また何度か吐いてしまいました。

 

具合は悪いのですが意識ははっきりしており、周りの人の様子や私のもどしたもののビニール袋が目の前に並べてある光景がはっきりと分かり、なんとも言えない気持ちになりました。

 

体調が悪くなった時に状況が分からず、自分が言いたいことが伝わっているかも分からず、そんな中で周りの人が私の意志とは違う動きをするという状況が、こんなにも不安で怖いものだとは知りませんでした。

 

後日、プールなどの施設では救護がなされるのかと気になり、施設状況を伺いに行く機会を得て、スタッフの方にいろんなお話を伺いました。すると、救護室はあるけれども現在はほとんど使われていないため、いざという場合は事務所に運ぶという話でした。こういった状況では障害のあるなしに関わらず、いざという場合にこれではとても心配だと思います。

 

また、お話の中でスタッフの方が何度も「障害者は~」という話し方をされ、障害者に対する意識のズレや意識のバリアがあるのだなと感じました。

 

ひと言に障害者と言っても、障害はそれぞれ違います。施設に入る時に障害者手帳の提示を求めるのならば、「障害者は」とひとくくりの対応をするのではなく、手帳を見てどんな障害を持っているのか確認して、それぞれに合った対応がなされれば障害者も安心して利用することができるようになると思います。

 

今回のように自分が聞こえないとき、会話で意思が伝えられないときには、筆談ができればお互いのコミュニケーションがとれ、状況が把握でき、双方が不安になってしまうということもなかったでしょう。

 

このようなスポーツ施設や公共の場には耳マークをぜひ設置していただきたいです。ここでの“耳マーク”は「ここでは筆談での対応ができます」という意味の印です。耳マークがあることで、聴覚障害者は安心して利用できます。これを見る健聴者の皆さんもまた聴覚障害者を意識するきっかけになります。本当の意味でのバリアフリーを目指していく。そんな島原であってほしと願っています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?