諦めや我慢することなく~自由に日常を楽しめる世に~

第69回

難聴ソルのゆんたくTime

 

2015(平成27)年12月8日 島原新聞掲載

 

11月21日に封切となった注目映画がある。題名は「レインツリーの国」。有川浩さんの小説を映画化したものである。内容は恋愛映画なのだが、他と違うのは、主人公の女性「ひとみ」が聴覚障害者であること。ただ、障害者が出てくる映画にありがちな障害を悲劇や、現実味に欠けた感動に仕上げるような内容ではない。

 

私は原作の小説を読んで自分の経験と重なる部分がたくさんあり、共感を覚えた。この映画を見て聴覚障害者のコミュニケーション手段は手話だけではないということも理解してもらえると良いと思う。

 

特に私の印象に残ったシーンがある。それは2人が初めて会って伸がひとみを映画に誘うシーン。「何が見たいか?」と尋ねられたひとみは「字幕付きの洋画が良い」という。都合の良い映画がなかったので、「吹き替え版か邦画にしよう」と提案するものの、ひとみは頑なに字幕付きにこだわる。私はこの時のひとみの気持ちと行動の意味がよく分かる。画像で見る時、字幕がないと内容が分からないのである。ひとみは自分の聴覚障害を知られたくなかったし、また、普通の女性として扱ってもらいたかったのだ。私自身もまた普通の一人の人間として扱ってもらいたいと思って自分の聴覚障害を隠していた時期があった。

 

学生時代は友達と一緒にテレビを見たり、テレビ番組の話をしたりするのが辛かった。皆は楽しそうに見ているのだが、私にはさっぱり内容が分からなかった。聴覚障害者にとって画面上に字幕がないと内容が理解できないことも多い。以前に比べると今ではほとんどのテレビに字幕がつくようになったので日本の映画も楽しめるようになった。嬉しいことだ。

 

先に書いた映画「レインツリーの国」は12月5日から11日まで全国のTOHOシネマズで日本語字幕付きの上映になる。今日はこのことをお知らせしたかった。聴覚障害者の日常生活をありのままに描いた作品なので聴覚障害を持っている方はもちろん、是非多くの皆さんにご覧になっていただきたい。これを機会に字幕付きの邦画が見たい時に見ることができるような流れになると期待している。情報誌やホームページなどで、いつ、どこで、字幕付きの映画が上映されているかを気軽に調べることが出来るようになれば、さらに嬉しい。聴覚障害者が諦めたり我慢したりすることなく、自然に自由に日常を楽しめる世の中になることを祈っている。

 

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