涙と拍手が自然に~字幕グラスで生の感動~

第87回

難聴ソルのゆんたくTime

 

2018(平成30)年7月24日 島原新聞掲載

 

福岡市のキャナルシティ劇場で劇団四季のディズニーミュージカル『リトルマーメイド』福岡公演が上演中です。

 

「想像を超える驚きと感動を今こそ」のキャッチフレーズがチラシに踊っています。

 

すでに観に行かれた方もいらっしゃるかもしれませんが、私もその一人。感動しました。泣きました。私は今回初めて、演劇の醍醐味、素晴らしさを体感しました。

 

これまでも、東京や福岡の劇場に足を運んだことはあります。『李香蘭』、『ライオンキング』、『キャッツ』と、ありとあらゆるものを見てきました。

 

自分から観に行きたいと思って観劇に出かけはしたものの、難聴である私は見終わった時に結局、台詞が聞こえないため話の内容が理解できなかったという、残念な思いをすることが多くありました。

 

カーテンコールで、スタンディングオベーションをすることもありましたが、それまで頑張ってきた役者や、舞台関係者に対する敬意の表れとしてのものでした。

 

しかし、今回は自然に湧き上がる感情が私を立ち上がらせ、気づくと泣きながら拍手をしている自分がいたのです。演劇を見て感動することはこういうことなのか。会場と舞台が一体化するということは、こういうことなのかと生まれて初めて知りました。

 

なぜ私が劇団四季のリトルマーメイドでこのような感動を味わえたのか?それは今回導入された“字幕グラス”の力が大きいです。

 

字幕グラスとは、専用メガネをかけると役者のセリフやミュージカルの歌詞が吹き出しのような感じで表示されるものです。

 

聴覚障害を持っていても、舞台の進行に合わせて文字情報が受け取れるので、舞台の上で繰り広げられる物語がそのまま伝わってきます。

 

つまり健聴者が演劇を見るのと同じように、言葉や音を感じ取ることができるのです。

 

これができたことで、私は初めて演劇を、ミュージカルを心から楽しむことができました。

 

この字幕グラスは、多言語字幕サービスとして4か国語でスタートしたものですが、聴覚障害者にとっても、舞台芸術を楽しむための一助になります。

 

実際今回使ってみると、いくつか気になることがありました。ひとつは思ったより重いということ。長く使用していると、鼻あての部分が痛くなってきます。ネックストラップで端末を首から下げ、ピンマイクのようなものを上向きにつけているため、人によっては少し首がきついと感じることもあるかもしれません。それを差し引いても余りある感動でしたので、この点が改善されれば、今後さらに快適に観劇することができると思います。

 

利用するにあたって、留意しておかなければならない点は、数に限りがあるため、事前に予約しておく必要があること。また、同意書にサインしたり、聴覚障害者用に説明をしてくださったりするので、時間に余裕を持っていくことをお勧めします。字幕グラスの料金は現金のみの対応で、レンタル料金1千円。それに加えて貸し出し補償金3千円が必要に。機器を壊したりせずに返却すれば、この補償金3千円は返金されるというシステムです。

 

聴覚障害者でも楽しめる!ぜひ劇場に足を運び、この字幕グラスをつけてみてください。これまで味わったことのない感動が味わえるはずです。

 

私は、字幕グラスでリトルマーメイドを見て、自分も海の中にいるような気分になりました。話の筋が分かるようになると、役者さんの動きと感情がぴったり合ってきて、それが私自身にもリアルタイムに伝わってくるのです。

 

リトルマーメイドは、子どもウケの物語のようにも思えますが、大人の視点で観てみると、普遍的な父から娘への愛の物語であると感じました。父親の娘に対する不器用だけれど深い愛情。娘を守りたいがゆえに厳しくなってしまう、それでも子どもが危険にさらされた時は身を呈して娘を守る。何よりも娘の幸せを願うその姿勢が、思わず自分の父と重なりました。今まで感じたことのない全身を震わせるような感動を味わえました。演劇って本当に素晴らしいものですね。

 

字幕グラスがなければ、このような感動を味わうこともなかったでしょう。生きていてよかった。こんな時代が来るなんて夢に思っていませんでした。

 

会場と一体化するということ、ライブとはこんなに素晴らしいものなのか。それを知った劇団四季の舞台でした。

 

劇団四季の作品や取り組みは、私達に舞台鑑賞をはじめとする社会参加の道を広げる希望にもなるのです。

 

今後もぜひ長い目で改良を重ねながら、健常者のみならず、多くの障害を持つ方達にも舞台を楽しめるようなシステムを作っていってもらえればと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

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