UDトークを導入~先進地 安曇野を視察~

第90回

難聴ソルのゆんたくTime

 

2018(平成30)年9月29日 島原新聞掲載

 

UDトークという音声認識アプリがあることをこれまで何度か取り上げてきました。私の周りでは、まだまだ身近に活用されていません。日常生活で使えるようになるととても便利なので、普及を図りたいと思っているんですが現実的には難しそうです。

 

…と思っていたら、なんと市でUDトークを導入し、活用しているところがあったのです。たまたま私はその現場を見せてもらうことができ、驚くとともに感激しました。

 

今回、私が訪れたのは長野県の安曇野市役所です。そのときの様子を報告したいと思います。

 

用件があって長野に行き、諏訪湖で写真を撮ってSNSにアップしたところ、安曇野在住の知人から、「安曇野にいらっしゃいませんか」と連絡がありました。その方は上林玲子さんとおっしゃり、UDトークの活用やセッティングをするRoiS(ロイス)という会社の代表取締役です。

 

今年の3月に熊本でUDトーク講習会の講師としていらっしゃっていた方で、面識はなかったのですがSNS上でやりとりをしていました。急なことでしたが、前からお会いしたいと思っていたので良いチャンスだと思い、お会いしましょうと返事しました。

 

お会いしてみるととても気さくな方で、安曇野の名所、大王わさび農園や有名なお蕎麦屋さんなどいろいろなところに連れて行ってもらいました。

 

途中で市役所に行ってみますか?と言われたので、自分の住む地域の市役所以外はなかなか行くことはないし、面白そうだなと思い、行きたいですと答えました。

 

安曇野市の人口は9万4871人(2018年4月1日)。市役所は3年前に新築されたばかり。入った途端に「わぁー、素敵だな」と思いました。天井が高く開放感があり、気持ちの良い造りでした。左右に各課のカウンターが並んでおり、とても分かりやすい表示がなされていました。

 

私たちはさっそく福祉課の女性の係長さんを訪ねました。

 

まず、すごいと思ったのは、簡単な仕切りごとに耳マークやヘルプマークが並べてあるのですが、それが全然押しつけがましくなく、自然と目がいくような工夫がなされていたことです。

 

これは私たちに伝えてくれた福祉課の課長さんのアイディアということです。「すごく良いですね」と感動を伝えると喜んでくださいました。

 

次に、聴覚障害に関しての情報保障はどうなっているのかと尋ねたところ、1枚の申請書を私に見せてくださり、手話通訳、要約筆記の派遣のほかUDトークも使えます、とのこと。それを聞いて、要約筆記とUDトークが制約なく自由に選択できるという利便性の良さにとても驚きました。

 

私の周りでは基本、UDトークという選択は公的派遣には含まれないため使えません。つまり、安曇野市は自治体としてUDトークを活用する方針をとっているということです。

 

実際、窓口に普通にUDトークが使えるiPadが設置されて、専用のマイクが繋がっており、聴覚障害者と窓口担当者のコミュニケーションはすぐに取れるようになっています。言っていることはきちんと伝わって、また相手が言っていることもすぐ理解できて、余計な壁が取り払われた印象がありました。

 

「よりよいコミュニケーションを!」と言葉で書いてあるところはたくさんありますが、本当にスムーズに気持ちよくコミュニケーションできる場はなかなかありません。ですが、安曇野市役所は、UDトークも口話も手話も全て使いながら、私のような突然の来訪者にも最後まで笑顔で対応してくださいました。本当に感動しました。

 

安曇野市では、さらにUDトークを議会事務局や教育委員会の議会や会議等の議事録作成にも応用し、市民課や交流学園センターでは多言語翻訳機能を活用し、外国人への対応を行うことができるようになっています。

 

市をあげてUDトークをいろいろな場所で使っていこうという意識の共有がなされているのもとても興味深いことでした。

 

市の中にスムーズにUDトークが導入されるためには上林さんの働きかけが大きかったのではないかと思います。

 

また、福祉課の係長さんと上林さんの会話を聞いていると、お互いがお互いを尊重し合っているように感じがよく伝わってきました。良い人間関係がここにはあるんだなと思いました。

 

これからどんどん時代が変わっていきます。新しい技術もどんどん生まれてきています。今までの基準で考えるのではなく利用者が使いたいという情報保障の選択肢が広がっていくと良いなと思います。

 

今回はとても良い先進事例を実際に見ることができました。安曇野市の軽やかな対応に感激もひとしおでした。

 

安曇野市以外でもUDトークを導入している自治体があります。そのようなところも含めてどのような使われ方をしているのか、注目していきたいと思います。

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