気づく大切さを高校生に~優しい心遣いがおもてなし~

第64回

難聴ソルのゆんたくTime

 

2014(平成26)年6月29日 島原新聞掲載

 

6月23日の午後、島原農業高校生活福祉科2年生の皆さんを対象に、「長崎がんばらんば大会選手団サポートボランティア養成講座」の手書き要約筆記講習を行いました。島原要約筆記会会長の市川さんと私が講師を務め、島原要約筆記会の中島さんが私のサポートとしてついて下さいました。

 

「見えない障害」と言われる聴覚障害を2時間という限られた時間の中でどう理解してもらうかというのが問題でした。そこで市川さんが具体的に見てわかるような自己紹介の工夫をしたのです。それは、市川さんと中島さんと私がそれぞれ口頭で自己紹介をし、それから中島さんと私が教壇の下に隠れ、そこで私が人工内耳と補聴器を外しました。その後、2人とも何事もなかったように立ち上がります。まず、市川さんが中島さんを誘導して前に立たせました。市川さんは中島さんの後ろに回り、「中島さん」と声をかけます。するとどうなると思いますか。当然、健聴者である中島さんは「はい」と言って振り向きます。今度は同じように私が前に誘導されました。市川さんは私の後ろから「目代さん」と呼びかけます。すぐ後ろに来て呼びかけても私の耳には入ってきません。結局、肩を叩かれるまで気づくことができませんでした。

 

最初に私達3人は口頭で自己紹介をしました。その時は誰が聴覚障害者か分からなかったかもしれません。これが聴覚障害が「見えない障害」と言われる所以です。今回はこの実演による自己紹介で話はできるけれども、聞き取ることができない難聴者がいるということを分かってもらえたと思います。

 

今回短い時間の中で、市川さんが要約筆記についての概略と方法を話し、私が難聴者としての体験談を話しました。若い皆さんに望むことはボランティアとして参加した時には、選手のことや周りの状況を注意深く見て、色々なことに気づくこと。そして気づいたら次に行動に移すことです。聴覚障碍者は外見では判断できないことが多いです。「もしかしたら、この人、聞こえていないのかな?」と思ったら、すぐにメモ用紙とペンを持って「何か困ったことはないですか」と、駆けつける勇気を持ってほしいと思います。高校生の皆さん、頑張ってください。

 

「気づくことが大切」と書いてきましたが、今回、農高の皆さんにお話をする中で私が気づいたことも沢山ありました。

 

まずは、気持ちの良い挨拶。私の目をしっかり見て元気に「こんにちは」と声をかけてくれる皆さんの礼儀正しさに感心しました。

 

それから、講座の中で書いて伝える実習をしていた時のこと。次のようなアナウンスがあった場合、内容を正しく伝えてください、という例題を出しました。「開会式は9時30分より始まります。会場の外にいる方は○○へお集まり下さい。」この内容を文字で伝えてもらいました。手元にA4サイズの紙を配り、それに書いて高く上にあげてもらいました。基本的にはアナウンスの指示通りに書けばいいですよと説明したので大半の生徒さんは指示通りに書けていました。その中で私の目についた紙がありました。分かりやすく、大きな字で「開会式9時30分~。○○集合」とあったのです。これは要約筆記そのもの。「要約して書いてください」と言ってなかったのに、短い時間で簡潔に伝えるためには、どうすればいいかを理解して実行できた生徒さんもいました。とても素晴らしいと感心しました。

 

応対の実習の中でも印象的なことがありました。「島原の名物は何ですか?」と尋ねたところ、多くの生徒さんが「具雑煮」と書いて紙をあげました。続けて「どこが美味しいですか?」と尋ねると有名なお店の名前を書いた生徒さんが多い中に「我が家」という一枚がありました。興味深く思ったので「ではお宅に食べにいってもいいですか?」と聞いてみると、「うちでよければ、どうぞいらしてください」との返事が書かれました。私はそれを見てとても心温まる思いがしました。

 

帰りに農高で育てたナスを頂きました。とてもツヤツヤしてきれいな色のナスでした。早速、家に持ち帰り美味しくご馳走になりました。野菜一つ育てるにも、虫がついていないか、水が切れていないかと注意と細かな気遣いが必要でしょう。こんなに美味しいナスを作る農高の生徒さんは皆、人に対しても優しい心遣いができると思います。がんばらんば大会での皆さんのご活躍が選手の皆さんの力を引き出すことにつながることと思います。小さなことにも気づき、どうすべきかを自分で考え、よりよいサポートができるよう頑張ってください。高校生の元気な笑顔がなによりのおもてなしです。

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