見出し画像

かん味処Vol.1「POPはいらない」POP講座

とても面白い「POPづくり」講座に参加した。
伝えるPOPをつくるには、時にPOPは必要ないという。そのこころは、商品のPRとはなにかを本質的に、いろんな角度から考える講座だった。

きっかけは、奈良おおの農園さんのツイート。

これで実現したのが、Kanさんこと菅慎太郎さんによる、農家さんや漁師さんなど一次産業生産者をターゲットにした”伝わる”POP講座だ。

パッケージ×売場の関係を考えながら、売れるためのPOPには知恵と工夫が必要です。誰にでも実現可能な方法を見に付けて、自分の商品のアピール上手になりましょう!
 「かん味処」講座概要より

 私はこれまで食べる専門だったけれど、この4月から食と農の世界に足を踏み入れる。生産者さんが適正価格で商品を売るためのヒントになるんじゃないかと、この講座に参加した。

 そもそも、菅さんとは何者なのか。
肩書は、合同会社口福ラボの「味覚コンサルタント」。

講師:菅 慎太郎(合同会社口福ラボ 味覚コンサルタント)
  焼酎利酒師の資格を持ち、お酒と食べ物のマリアージュを探求しながら、全国各地を回り、さまざまな商品開発、地域商品の発掘・ブランド化支援、味を起点とした食育活動を行う。

 日々のツイートからは、食に関する圧倒的な知識と経験、トレンドや業界動向はもちろん、経営や政治にも明るいことがヒシヒシと伝わってくる。飲食から地方創生まで、いろんなところに関わっているらしい。なにより、昨年五味農園のお野菜レスキューのために、レンタカーを手配して長野から東京へ大量の野菜を運んでくれたのが、菅さんだった。
 ナニモノか簡単に言い表せないけど、信頼できる食の現場の人であることは確かだと思う。

1.「POPはつくるな」

 今回の勉強会のテーマは「“伝える”POPをつくる」。でも、開始早々に菅さんは「POPは必要ない」と言った。
 例えば、セブンイレブンでは商品説明をしたPOPを見かけない。あるとしても、「店長のおすすめ」的なやつ。その程度。なぜなら、コンビニは短時間でサッと買い物をする場所。そこにいくつも手書きPOPが貼ってあっても、読まれない。つまり、POPが購買者の行動パターンに合っていないのだ。効果的に使えないのなら、POPをつくる必要はないということ。
 さらに、コンビニは商品のパッケージによって商品のPRをしている。つまり、POPだけが商品を訴求する手段ではなく、売り場の要素(棚の陳列、商品パッケージ、POP)全てを使いPRするのだという講義の趣旨が示された。

 つまり、これはPOPを入口にして「商品をどう売るのか」を本質的・戦略的に考える勉強会なのだ。

2.ひとはどうやって買い物をするか

 菅さんが講義のなかで何度も言っていたのが、そもそも「良い商品づくり」が最優先ということだった。そしてPRの役割は、その良さを正確に伝えること。
では、伝えるために何を意識すべきか、講義を聴きながら下記のようなメモを書いた。

・買い物をするシチュエーションによって、求められ情報量が違う。
・購買者の認知行動を知り、ベストなタイミングで訴求する。
・棚づくり、商品パッケージ、POPの役割を知り、効果的に使う。
・商品を置く売り場全体で、効果を考える。
・その商品の良さは何か、何を伝えるか。優先順位をつける。

 面白かったのが、商品の認知~購買に至るまでのステップごとに、売り場の棚、POP、商品パッケージが果たす役割が違うということ。
 
 例えば、売り場で棚の前を通る人をPOPで惹きつけるには「2秒の壁」があるという。人間が一瞬で認知できる情報は2秒まで。文字ならワンフレーズだけど、おいしそうな写真や絵なら文字以上の情報量を提供できる。
 この2秒で訴求し、商品を手に取らせる。手にした商品のパッケージにはより多くの情報を載せる。それを読んで納得させ、購買につなげるというのだ。
 
 冒頭のコンビニの例でもそうだが、日常的な買い物では長いストーリーのPOP、商品が掲載された新聞の切り抜きなどは読まれないし、購買にもつながらない。一方で、じっくり選んで買いたいもの(例えば本屋さん)には、文字情報の多いPOPも有効だという。

「普段の買い物に、ストーリーが必要か」

ストーリーこそ顧客の心を掴むとおぼろげながら考えていた自分には、衝撃的な言葉だった。でも、自分自身が普段どう買い物をしてるかを思い出して、納得しかなかった。ストーリーは、効果的な場面でないと伝わらないのだ。

3.ブランディングは、本質ではない

 今回の勉強会で一番印象に残っているのは、お客さんの興味を引く「キッカケ」と「商品価値」を切り離して考えるという話だ。
 例えば、一輪車に乗るのが得意という農家さんがいるとする(これはまったく架空の例です、あしからず)。一輪車キャラが「キッカケ」でそのひとを知っても、肝心の野菜が美味そうじゃなければ買わない。
つまり、そもそもの「商品価値」が低ければ意味がない

 でも、昨今はこの「キッカケ」ばかりに注力している例をあちらこちらで見る。たしかに、商品があふれている現代なので、”映え”やキャッチ―な宣伝で、まず注目してもらうことが必要だと思う。でも、モノが良くなければ次に買うことはない。お洒落なパッケージも、共感を呼ぶストーリーも、いわゆる”ブランディング”ばかりを頑張っても、そもそも実が伴っていなければ努力の方向が違うということだ。
 実際、自分も産直ESを利用する時、SOSの応援購入にしろ、話題に上がった商品にしろ、食べて美味しくなければ次は買わない。胃袋の容量にもお財布にも上限があるから、やっぱりおいしいものに費やしたいと思う。だからこそ、まずは「良いものを実直につくること」が一番なのだ

 多様な商品やキャッチーな宣伝が溢れる中でお客さんに訴求するには、その売り場全体で自分の商品がどう見えるのか、という視点はとても有効になる。その視点を持って商品パッケージを見直せば、不要な資材コストや宣伝費も抑えられるかもしれない。コストのスリム化は、持続可能な経営に繋がる。いいことづくめだ。

 こう書いてはいるけれど、キャッチ―で共感しやすいストーリーに寄りがちな自分もいる。それは消費者としてもだし、何かを発信する時もだ。表面的なものに翻弄されて、わけがわからなくなる時がある。冷静に本質を考えて、周りを見て、戦略的に行動する。それは一次産業の売り場だけでなく、何事においても大切なことだと、今回のPOP講座で学んだように思う。

4.食品衛生法の改正、知ってますか?

 いい商品づくり、本業を大切にする、ということで最後に菅さんが言っていたのは「法律順守」
 小規模農家さんなど、一次産業の生産者に大きな影響があるのが、食品衛生法の改正だ。農家がつくる加工品も、製造許可取得が義務となる。たとえば生産物を使った漬物や、野菜セット用に大根を半分にカットしたという場合も食品の加工にあたるそうだ。義務化は2021年6月1日からだが、準備申請のためには4月から対応が必要な例も多々あるという。
 詳細は、地域の保健所に問い合わせると資料や研修で学ぶことができるそうなので、一次産業に関わる前にしっかり勉強しようと思う。

【食品衛生法の改正について(千葉県)】

(菅さんからのご指摘で内容を訂正しました。ありがとうございます!)

5.次に向けて

 今回、POPを入口にして、深く「商品を売る」ことの本質を考えることができて、すごく勉強になった。自分は商品を売ることはなくても、人に何かを伝えるときに、今回学んだ考え方が活かせると思う。実践し、すこしでも身につけていきたい。
 そして、改めて菅さんの引き出しの多さに恐れおののいた。いったい、どんなアンテナを立てているんだろう。菅さんの情報収集力、情報の分析、情報の使い方について、いつか「かん味処」のテーマになったら嬉しい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?