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1 七曜工房の笛~その5(管種と指孔)  

オリジナル横笛の女竹やジャパンホイッスルでは、highD管からLowD管までの8種類。ノッチフルートではG管からLowA管までの7種類。ウッドホイッスルではhighF管からF管までの5種類。と同じ仲間の笛でもちがう長さのものがたくさんあります。
オーケストラでは、フルート(C管)とピッコロ(C管、D管)。バロック期以前のリコーダーは、ソプラノとテナーがC管、アルトとバスがF管。アイルランド音楽でよく見るのは、アイリッシュフルート(D管)、ティンホイッスル(D管)、ローホイッスル(D管)。フォルクローレでは、ケーナ(G管)、ケナーチョ(C管)。と言ったように2種類程が使われるだけです。
では、日本の笛はどうでしょうか。篠笛では、1本調子のF管から13本調子のhighF管まで13種類があります。半音ごとに1オクターブが揃っています。尺八は、1尺八寸のD管だけでなく、短尺管から3尺といった長尺管まで篠笛よりも種類は多そうです。それに反して、雅楽や神楽で使われている龍笛や神楽笛は1種類だけです。
篠笛のように数多くの調子の管があるのは、唄の伴奏に使われるときに、唄い易さを優先して、唄い手の声域に合わせて基準音を変えるためのようです。半音の半分といった違いの管もあるようです。
逆に尺八では、「一音成仏」という言葉があり、一つの音を吹くだけで悟りの境地に到達することを言い、尺八の演奏の究極の姿だそうです。これはたった一つの音で世界が成立するということで、一つの音が心の中で様々に聴こえるということでもあるのでしょうか。尺八で奏される曲よりも、尺八の一音一音の音色そのものに音の世界を感じた日本人らしい価値観だと思われます。
笛は音楽とともにある時間が長いようですが、音楽以外のものと共存したり、笛単独での存在感が強いのは、笛の音色そのものの魅力や神秘性にあるようです。
このことからすれば、同じ種類でも長さの違う笛を吹いて、音色の違いや音の変化を楽しむことができるということです。
指孔押えのキーを持たない笛は、指で押さえ易くするために、また正確な音程を出すためには指孔の大きさがまちまちになります。
また尺八は5音階笛なので、7音や12音を鳴らすためには、複雑な指使いや唇の当て方、息使いを用います。そうするとそれぞれの音は、どうしても音色や音量に差が出て、均質な音が出ません。が、日本人はそれを楽しみ好んだのです。
西洋では、正確な音程と均質な音色が好まれます。一本の笛を吹いた時に、それぞれの音は粒ぞろいでなくてはならないのです。現在のベーム式フルートはまさにこの要求を満たしています。そしてキーを持っているため、自由自在にあらゆる音を出すことができます。(もちろん練習は必要ですが)。西洋と日本とでは、笛に求めるところが少し違っているのは確かです。優劣ではなく好みの傾向と言えます。音楽や笛の進歩発展の仕方が西洋と日本とで違うのは当然のことで、それが文化なのですから。
製作の立場からも言えるのですが、同じ種類の笛を長さを違えて、何本も作っていて気付くのですが、音色がキレイに響く音域が笛の長さによって違うことです。短い笛は高音域が、長い笛は低音域が心地よく響き、音も出し易いのです。
なので、原曲とは調が違っても、そのキレイに響く音域を生かした吹き方をすれば、違う趣きで楽しむことができます。同じ種類でも長さの違う笛を何本か持つということは調や音色に応じて使い分けることにより、一層その音楽の理解や楽しさを深めることができると思います。功利的な言い方になってしまいますが、何十万円もするメカニックをフル装備したフルート1本持って音楽を楽しむのと、数万円のメカニックを持たないプリミティブな竹や木の笛を数本持って音楽や音を楽しむのと、どちらを選ぶかは好みや考え方次第です。


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