小骨が刺さったせいであんまりイワシが美味しくなかった話
朝、イワシを食べていたら小骨が歯茎に刺さった感じがした。私は人一倍ズボラで、そういうのを無意識のうちに流してしまう。いつか取れるだろう。気がつくと、昼頃まで舌で刺さった小骨を探っていて、もごもごとしている私を見て母親が笑った。
中学生の頃、人気ものだった女の子のロッカーの荷物がボロボロにされているという嫌がらせがあった。様子のおかしいその子に気づいた女子数名は、その悲惨な状態に眉をひそめながら彼女を慰めた。その時の彼女の一言をいまだに時々思い出す。
私はいつも見栄っ張りで、他人にも自分にも素直になれない。でも、やっと少しづつ、自分の思っていることをこぼせるひとができた。辛いことがあり、言った。相手の優しさに、一人泣いた。胸がすうっとした。辛いことを辛いと言えるのは、救いだ。
ロッカーの中をめちゃくちゃにされた時に青ざめていた彼女は、友人たちに慰められながら泣いた。「やめて。優しくされたら泣きたくなっちゃう。」私は彼女を見ながら、しみじみと、素直なひとだなあと思った。当時の私は泣くときは隠れ、ひとしきり泣いたあとに「いやあ、そんなの全く痛くもかゆくもないっすわあ」みたいな顔で現れるのであった。言霊のせいだろうか、そんな感じで生き続けていたら、何が本当に辛いのか、気がつくと誤魔化して流してしまうようになっていた。
イワシの小骨は舌で探ってもなかなか抜けなかった。鏡を見てみると、思っていたよりも前に刺さっていて、親指と人差し指ではさんだらすぐに抜けた。おお、スッキリ。「なんか、ずっと気になってたんだよね」そう言ってから気づいた。そうか、私気になっていたのか。母親は笑った。すっきりとした心地で思った。多分、私の頭の中にはこんな小骨がたくさん刺さっているような気がする。一度鏡で見てみようか。そうしたらもう少し素直になれるかもしれない。
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