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酸いも甘いも知りたくて

私は、たぶん人一倍"誘惑"に弱い。とてつもなく我慢弱い。最近にいたっては、ライターという職を得てから、「ネタになるかもしれないから」という大義名分もできてしまい、なんだか面白そうなお誘いには二つ返事で答えていた。「フットワークが軽い」なんて言えば聞こえはいいけれど、正直なところ、自分のしたことをかえりみると、どうしても"幼稚さ"が垣間見えて恥ずかしくなる瞬間が多い。

公開前から気になりつつもなかなか観に行けていなかった映画「キャロル」を観に行った。公開終了間際、すべりこみだ。とても美しく妖艶な映画だった。私は映画通ではないので(観たとしても年に5本程度だ)、映画評は慎む。

※ただ、内容に言及しているので、この後の閲覧は自己責任でよろしくお願いいたします。

キャロルの美しく妖艶な表情と対照的な、テレーズの無垢な表情が印象的な映画だった。化粧っ気のない、少しどんくさいテレーズ。キャロルは彼女のことを「天から落ちてきたひと」と形容する。タバコもお酒も嗜み、恋人もいるテレーズは、しかしキャロルの言う通り、どこかピュアで純真な顔をみせる。

純情といえば聞こえはいいけど、それは、幼さと裏表の関係だ。恋人に向かって、「恋をしたことはある?」と問い詰めたり、「(キャロルは)話が通じるから好きなの!」と激昂するテレーズには、思春期の特有の"自我のなさ"をありありと感じてしまう。ただ流されるままに恋人との結婚話が進んで行くのを傍観するテレーズ。恋人がいるのに他の男性からせまられ、大した抵抗もしないままキスを受け入れるテレーズ。自分でランチメニューを選ぶこともできないテレーズ……。

テレーズは、キャロルの誘いで旅行に行く。しかし、キャロルは前の夫と離婚の調停中、子供の親権を争っているときであった。女性と付き合っていた過去をもつキャロルは、またしてもテレーズという女性と関係をもっていたことをスパイにとりあげられ、子供の親権を永久に剥奪されるかもしれないという危機に陥る。

「私は何も知らず、ノーと言えないの」

楽しい旅行から一転、事態の重大さに気づいたテレーズは泣きながらキャロルにこう言う。"何も知らない"。はたしてテレーズは何も知らないのだろうか。酒もタバコも男も、ましてや女性との愛も知ったいま、テレーズは一体何を知らないのだろう。

「あなたはまだ若いから、説明や解決を求めるでしょう」

翌朝、キャロルは子供の親権を守るため、テレーズをひとり置いて夫のもとに帰る。いつかあなたを幸せにするという言葉を残しながら、具体的に彼女が何をするのか、なぜテレーズを置いていくのかは記さずに。テレーズはショックのあまり嘔吐する。

「自分を偽る生き方じゃ、自分の存在意義がない」

キャロルのこの一言が印象的だった。誰よりも自分の欲求にまっすぐで、誠実に言葉にする人だった。最初から最後まで、キャロルは強く、気高く、成熟した女性だった。テレーズはそんなキャロルの大人の愛のもと、少しずつ、"何か"を知っていく。

クライマックス。テレーズは密かに夢にしていたカメラマンの仕事をすることを決心し、そして、再びキャロルと生きて行くことを選ぶ。彼女は初めて自ら人生を選択したのであった。

思うに、「何も知らない」というのは、「自分が求めるもの」が何か知らないだけなのだ。私たちは、自分が思っているよりもはるかにたくさんのことを知っていて、そして知らない。「ノー」と言えないのは、「イエス」がないから。人生において欲しいものが見つかれば、ノーと言うことができるんじゃないか。そんなことを思ったりした。

"知らない世界を見てみたい"私は、いつまでも知らない世界にふりまわされつづける。好奇心を言い訳にするのはやめて、そろそろ大人にならなければ。

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