幸せのレシピ

一緒にいるだけで世界が広がるひと

ずいぶんと久しぶりに、映画「幸せのレシピ」を観た。最初に観たのはもう何年前だろう。母親と別の映画を観に行ったとき、上映前の予告で流れたのがきっかけだった。予告があまりにも面白そうだったので、「今度これ観に行こうね」と言おうと母親の方を向いたら、泣いていた。予告で、泣く。

おおまかなあらすじはこうだ。キャサリン・ゼタ=ジョーンズが演じる主人公、ケイトはマンハッタンのレストラン「ブリーカー22」で料理長をつとめている。才能はあるが、威圧的でキレやすく、オーナーの命令でセラピーに通うほど。ある日、彼女のもとを訪れるはずだった姉が事故を起こし死亡、孤児となった姪ゾーイを引き取ることになる。ケイトが休みから復帰すると、厨房の雰囲気は一変していた。副料理長のニックが、ラジカセで大音量のオペラを流し、歌う。ほかの料理人も思わず笑みがこぼれてしまうその光景に、ケイトは絶句する。

とにかく、ニックが格好いいのだ。愉快で、粋で、あたたかい。当時映画館で観ていた私は、とにかく「ニックが格好いい」「ニックみたいな旦那さんが欲しい」と興奮していた覚えがある。

ニックに厨房を奪われたと思ったケイトは「この厨房は、私にとっての全てなのよ」と憤る。それに対してニックは否定する。「いや、違う。たった一部だ」

「たった一部だ」いい言葉だ。

はたして、ひとに「たった一部だ」と言えるひとはどれだけいるのだろう。はたして、「君にとってはこれが全てだ」と言ってしまうひとがどれだけ多いことだろう。世界は思っている以上にシンプルで、取り返しのつかないことなどはない、と信じたい私にとって、ニックのこのセリフは、雲間に差し込む光のようにずいぶんと開放的にしてくれるセリフであった。私も言われたいなあ、これ(※)。

※ただし、ニックに限る。

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